作品タイトル不明
81「感動の再会ではなくね?」③
「――やめておけ」
康弘の低い声が響く。
千手は身を固くした。
「私に不用意な刺激を与えると、大変なことになるぞ」
「なんだと?」
「この家賃の高そうなマンションのリビングに、ビッグウェーブを解き放つことになるだろう!」
「ふざけんなぁあああああああああああああああ! 英智もだけど、あんたも腹が痛いなら家から出てくんな! 家で大人しくしてろ! 病院行け!」
「千ちゃんったら、パパのこと心配してくれるのね」
「うぜぇえええええええええええええええええええ!」
千手は髪を掻きむしった。
「ダーリン、そんな乱暴にしたら頭皮にダメージが」
「そういう問題じゃねぇえええええええええ! そりゃそろそろ頭皮を気にする年齢だけどな! 的確にダメージ与えるようなツッコミしてくるんじゃねえよ!」
「安心するといい、千手。七森家は代々ふっさふっさだ!」
「だぁああああああああああああああああああああ!」
真面目に話が進まないことに苛立ち、千手が叫ぶ。
ストレスで毛が抜けてしまいそうだった。
「ゆ、由良を呼んでくれ! 由良にこの場をめちゃくちゃにしてもらおうぜ! なんなら佐渡でもいい!」
「――千ちゃん。その由良夏樹って子供の話を聞かせてくれないかな?」
「…………なんだって?」
千手の表情が変わる。
七森康弘が、夏樹の名前を知っていても不思議ではない。
水無月家が祀る土地神みずちを殺したことは、秘密にしても完全に情報を遮断できないだろう。
なにせ神が死んだのだ。
例外的に他の神によるフォローがあったおかげで向島市に影響はなかったが、それでもわかる奴にはわかる。
「側近の、覚えているかな? 森山田からいくつか話は聞いている。なんでも将来有望な子らしいな」
「やめておけ。あんたが利用できるような奴じゃない。由良に手を出すと火傷じゃ済まないぜ……って、なんで不思議そうな顔をして首を傾げてんだよ!?」
「なんか雰囲気出しちゃってごめんね。パパ的には千ちゃんのお友達にご挨拶したかっただけで、別に利用しようとかそういうことは微塵も考えてないんだけど」
「考えろ! なんで停止が解けたらキャラ変わってんだよ! あんた、悪巧みをイキイキとするおっさんだっただろ!」
「……数年ぶりに身体が動いたと同時に、解き放たれたビッグウェーブと一緒に今までも悪い感じも出ちゃった!」
「俺のせいだった! くそっ! ていうか、なんで停止が急に解けたんだよ! 面倒臭え、一生停止されてりゃよかったのに!」
千手としては暴走状態の停止をかけたはずが、なぜ急に父と兄が解放されているのか不思議でならない。
虎童子が千手の耳にそっと口を寄せて呟く。
「ねえねえ、ダーリン。もしかして異世界に行ったことでダーリンと停止のつながりが切れて解除されちゃったんじゃない?」
「――ありえる。うわぁ、そういうことかぁ! うわぁ!」
虎童子の思いつきのような言葉に、千手は「それだ」と確信した。
そう考えると納得できる。
「そっか、異世界に行かなければよかったのか。いや、わかっていても行ったんだろうけど。この鬱陶しいおっさんが解き放たれることはなかったのかぁ」
後悔など微塵もしていないがちょっと涙が出そうな千手だった。