作品タイトル不明
79「感動の再会ではなくね?」①
「――っ」
虎童子と向島市の街を歩いていたところ、何かに呼ばれたように背後を振り返った。
「……ダーリン?」
虎童子も振り返ってみるが、背後には閑静な住宅街が広がるだけで道路に人はいない。
「いや、なんだか、ツッコミを求められた気がして」
「……ダーリン、ツッコミしすぎで疲れているんじゃないの!?」
「かもしれない。由良と出会ってまだ一ヶ月も経っていないのに、三年分くらいのツッコミをした気がするぜ」
「三年分っていうのがリアルっぽくてじわじわくる!」
「なんだか急に由良の声が聞こえた気がしてな。あいつのことだからどこかでイベントに巻き込まれている気もするんだが、連絡がないから気のせいだろうな」
スマホを確認しても夏樹から連絡は来ていない。
ただ、一度だけ強い力を感じとったのだが、向島市には魔族や神がいるのは知っているので気にしても仕方がないことだと思うことにした。
「とりあえず、飯は食ったからさっさと家に帰ろうぜ」
「食べたら次は子作りだね!」
「しねえよ!? あと外でそういうこと言うのやめてね!?」
「ダーリンったら、素直じゃないんだから。家の中じゃ優しいのに」
「ちょ、やめて!? 誤解されるでしょう!? 何もしていないのに何かしたみたいな雰囲気出さないで!?」
誰かが聞いているわけではないが、千手は慌てる。
千手としては、虎童子が好意を持ってくれるのは嬉しくないとは言わない。
鬼だから、などというつもりもない。
しかし、出会ったばかりの男女が交際するには早すぎる。
「もうっ、ダーリンったら、とらぴーは一途なのに」
「……肉食系は苦手なんだよ。仮に、仮にだが、本当にどうこうなりたいのなら――まずは文通からだろう!」
「わおっ、ダーリンったら大正!」
「平成生まれだよ!」
千手は止めていた足を進める。
虎童子との関係がどうこう以前の問題の前に、異世界での疲れがまだ抜けきっていないのだ。
夏樹はもちろん、一登や祐介は気にしていなかったが、千手にとって異世界は魔力が濃過ぎた。
鬼姉妹たちはむしろ過ごしやすかっただろうし、勇者たちは魔力持ちなので気にしていなかっただろうが、千手にしてみたら空気が重かった。
新たな神々と戦ったこともあり、力を使い過ぎたこともある。
一週間くらいはのんびりしたいと思っている。
(だけどなぁ、由良が一週間も大人しくしているとは思わないし、クソ兄貴がさっそく来たし、俺の方にもイベントが起きそうで怖え)
「――あれ? ダーリン?」
「ん?」
「マンションの前におっさんが立っているんだけど」
虎童子の視線の先に目を向けると、和装の中年男性がマンションの前に立っていた。
さすがに覚えがある。
(イベントが起きそうなんて考えたせいか、さっそくイベントが起きやがった。くそ!)
「千ちゃん! パパだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「いや、あんたそんなキャラじゃなかっただろ! どうしちゃったんだよ!? くそ親父!?」
「え? ダーリンのパパ!? あ、あの、あたい、千ちゃんの婚約者のとらぴーっていいますっ。きゃっ、言っちゃった!」
「虎童子ぃ! 俺は器用じゃねえから二人同時に突っ込めないから勘弁してくれ! おい、あんたもマジで涙流して両手広げて近づいてくるんじゃねえよ! 叫んで人呼ぶぞ!」