作品タイトル不明
76「お話を聞くんじゃね?」①
「征四郎おじさんが誰かと? ふっ、語るには時間が三日以上かかるでしょう」
「そんなに!?」
「わかりやすく言えば、ろくでなしの弟と弟嫁の、しかも托卵して生まれた甥を可愛がってくれる素敵な男性です。大人になったら僕は征四郎おじさんのような男になりたい」
「……えっと、坊やはもう十分すぎるほど貫禄があるんだけど……でも征四郎おじさんも良い方ね。あなたの母親と父親は天使的にもちょっとどうかと思うけど」
急にヘビーなことを言い出す義政に、花子も少し毒気が抜けたようだ。
義政を気遣うように彼の頭を撫でた。
「さて、花子さん。ひとつ、確認ですが、トイレの花子さんとは」
「無関係よ! 天使の花子さんよ!」
「ありがとうございます。では、天使の花子さん。小梅さんが持っている写真に映る大正ロマンな文学少女はあなたで間違いありませんか?」
「……そうよ。私の若い頃よ」
「違うんじゃ! 亡き姉を騙る不届者め! ゴッドに言いつけてやるんじゃ!」
「やめてくれない!? ゴッドは小梅ばかり可愛がるから、こっちが不利じゃない!」
「おどれが俺様のお姉ちゃんを騙らなければ良いだけじゃ!」
「だーかーらー! 私はあんたのお姉ちゃんだって言ってるでしょうが!」
「――そこです!」
「どこ!?」
義政がずびしっ、と指を立てる。
「こちらの文学少女から、今のあなたになってしまったきっかけを教えてくれませんか」
夏樹は義政のフォローをするために、小さな机とパイプ椅子を二脚アイテムボックスから取り出す。
とりあえず義政と花子に机を挟んで座ってもらう。
そして、一登が卓上ライトをそっと机の上に置いた。
「悪いようにはしません。花子さんにも花子さんの事情があるのでしょう。どうか、我々にお話してくれませんか?」
「…………」
「ええいっ、よくわらんがさっさと吐かんかい!」
小梅がライトを花子に向ける。
「――っ」
「まあまあ、小梅さん。そんなに威圧しては話せるものも話せません。落ち着いてください」
「……すまん」
「では、花子さん、話してくれますね」
義政が優しく語りかけると、花子は頷きおもむろに話し始めた。
「まだ令和になる前、平成の頃の話よ」
「…………割と最近っすね。あとなんで警察の取り調べスタイルになってるっすか? いえ、茅さん、違います。カツ丼の準備を頼まなくていいっすから。なんすかこれ!?」
銀子が何か騒いでいたが、花子は気にせず話を続けた。
「知り合いの結婚式に参加したのよ。普通に祝福したんだけど、なんか気づいたら私だけ結婚していなかったっていうか、趣味に没頭して交際とかしたことないし。私の父親が魔王サタンとかみんな嫌がるし。人間の知り合いに魔王サタンとかルシファーとか秘密を明かすと離れていくし。ああ、このままひとりなんだろうなーなんて思っていたら、不意に結婚相談所の存在を知ったのよね」
「……周囲の結婚に焦ったところに、ご友人も離れてしまったんですね。確かに、一般人では魔王サタンさんや天使ルシファーという存在は創作くらいにしか思っていません。残念ですが、ご友人が悪いというわけではないでしょう」
「それはわかっているわ。私も今は言うべきじゃなかったかなって思うもの。でも、やっぱり当時は寂しくて、そんな時に結婚相談所を見つけてもしかしたら運命の王子様がいるかもって」
「……そういうことでしたか」
夏樹には周囲が結婚して寂しくなる感覚はわからない。
もしかすると、友達みんなに彼女ができて遊んでくれない感覚なのかもしれない。
(あれ? そんな感じになりそうじゃね?)
数少ない友人たちが最近ラブコメっていることを思い出し、ちょっとだけ夏樹は動揺した。