作品タイトル不明
67「祐介くんはきっと幸せになるんじゃね?」①
――ピンポーン、と由良家のチャイムが鳴った。
「はーい」
返事をしてパタパタスリッパを鳴らして玄関に向かうのは、帰宅して晩御飯の支度をしていたルシファー・太一郎だった。
ピンクなフリルのエプロンを身につけたハリウッドスター顔負けのイケおじは、由良家の住人のごとく振る舞う。
「夏樹、祐介の婚約者ソーニャ・シラーさんがきたぞ」
「はーい、って、どうしてサタンさんがお母さんポジなんだよ!」
「よせよ、俺はまだ春子さんほどじゃないさ」
「褒めてねえよ! それはいいとして、ソーニャさんに上がってもらって!」
「おう。ってことだ、上がってくれ」
一登とツイスターゲームをやっていた夏樹は、勝負が付かぬまま中断すると、夕方のドラマ再放送を夢中で見ている小梅と銀子に声をかけようとして、やめた。
以前、銀子のドラマ中をサタンと戯れていて邪魔をしたら、三十分ほどボーイズラブとはを語られて大変な目に遭ったのだ。
そっと、ドラマの邪魔をしないように、ソーニャを出迎える。
「こんにちは、ソーニャさん」
「悪いな、由良夏樹。それにご家族にも迷惑をかけた。祐介はどうしている?」
デニムのハーフパンツにパーカーを羽織ったソーニャが、茶の前に現れる。
小梅と銀子はソーニャに軽く手を上げて、ドラマに戻る。
義政はサタンのお手伝いで晩御飯の支度中だ。
「なんかボロボロだったからお風呂入ってもらっている」
「そうか、無事でよかった。話は聞いていると思うんだが、祐介の妹と女と女の戦いをしたんだ」
「みたいだね」
「話はついたから、迎えにきたかったんだけど、どこにいるのかさっぱりだったんだ。地理がわからないっていうのは困りもんだな。あと、すまほ? をお義母様が買ってくださるそうだが、連絡手段がなくてな」
「と思ったので、ソーニャさんの魔力を探らせてもらいました」
「助かったよ。おかげで、ここに来ることができたからね。――しかし」
ソーニャはくるりと家の中を見た。
「とても暖かい家だな。由良夏樹の親が素晴らしい方ということがよくわかる」
「いやぁ、照れちゃうぜ」
「なーんで、サタンさんが照れてんだよ。あんた親じゃないし! まだ出会って一ヶ月も経ってないだろ!」
「――パパって呼んでいいんだぜ?」
「ぶっ飛ばしてぇ」
拳を握りしめる夏樹を一登が「まあまあ」と止める。
こんな時も義政は台所で周囲の音が届いていないのか、餃子の焼き加減を伺っていた。
「お風呂ありがとうございました。あ、夏樹くん、パンツ借りたね」
「……うん。パンツはいいんだけど、って、そのハート柄パンツ俺のじゃないし、サタンさんのだし!」
「あ、すみません、サタンさん」
「いいさ。似合っているぜ、祐介! それよりも、婚約者が来てるぜ」
「――ソーニャたん!」
(異世界から帰る時からずっとソーニャたんって呼んでいるのが、なんかきもい。ていうか、パンツだけじゃなくて服も借りろよぉ! 俺やサタンさんの服があっただろぉ?)
夏樹は祐介にいろいろ言いたいことがあったが、飲み込んだ。
もしかしたら、家の中ではパンイチというスタイルなのかもしれない。
人様の家でパンイチスタイルを貫いて欲しくないが、寛大な心で許そうと思う。
「祐介。怪我はしていないか?」
「うん。大丈夫。ごめんね」
「謝ることはない。私たちの魔法で何度かお前のことを吹き飛ばしたことは覚えている。まさか、服まで弾き飛ばしてしまうとは……とんだ恥をかかせてしまったようだ」
「気にしないで。よくわからない神に襲われただけだから」
「それはそれで問題というか、気にしてしまうんだが」
「まあまあ、まあまあ! それで、ひなたとはどうなったの?」
「話はついた」
「おおっ、さすがソーニャたん! ひなたは昔っから言い出したら聞かない子だから、いつも僕が折れていたんだけど、さすがに今回ばかりはね。お兄ちゃんとして妹から好かれていることは嬉しいけど、どうしてもそういう目では見られないっていうか、どう言えばいいんだろう。家族愛かな」
なんかいいことを言っているが、祐介は人間に興味がないだけだ。
もし祐介の趣味思考や、妹ひなたの種族が違えばまた違った展開だっただろう。
祐介がいいやつであることは間違い無いのだが、欲望に素直すぎるところがあることを夏樹はよく知っている。
「結論から言おう」
ソーニャは祐介にもったいぶることなく告げた。
祐介だけでなく、夏樹と一登も息を飲む。
「――私とひなたのふたりでお前を幸せにしよう!」
「――Ce!?《なぜ》 」