作品タイトル不明
間話「愛ちゃんと萌葱先生じゃね?」
新たな神々の「学校の神」こと、萌乃萌葱は教師の仕事を終えて帰路についていた。
「ふふ、なんと充実した日々。伝説の木も植えたことだし、あとは告白待ちだな」
「…………あなたってそんなに愉快な性格だったっけ?」
「誰だ?」
月読命から譲り受けた家に帰る途中、不意打ちのように声をかけられて手にしていたバッグを投げて身構える。
「あら、構えちゃって。戦っても私に勝てないんだから、無抵抗で殺されなさい」
「――愛の女神」
「愛ちゃんでーす」
セーラー服を着た愛の女神こと愛ちゃんがにこやかに立っていた。
萌葱の額から汗が伝う。
「私も、ここで終わりか。だが、満足だ。本当の意味で生徒と触れ合った。だが、できることなら伝説の木の下で告白されたかった」
「ぶっ、あはははは、なにそれおもしろいんですけど! ていうか、冗談だって、学校の神を殺すつもりなんてないってば!」
「……なに?」
愛ちゃんを前にして全てを諦めた顔をした萌葱に、冗談でしたと愛ちゃんは笑う。
いっきに脱力する萌葱が、その場に座り込んでしまう。
「諦めるの早くない?」
「馬鹿を言うな……私とお前では格が違いすぎる。戦おうものなら、手も足も出ずに八つ裂きにされるだろう」
「私って平和主義なんだけどなぁ」
「仮にそうであったとしても、こうやって対峙しているだけで私は怖い」
「あら、悲しい」
愛ちゃんは特に悲しむ様子もなく、泣き真似をした。
「それで、私に何の用だ?」
「つれないわね。せっかく忠告に来てあげたのに」
「忠告?」
「あなたが新たな神々を裏切って月読命についたことが気に入らない、三下どもが報復しようとしているから気をつけなさいよ」
「……やはり、そうなるのか」
「ま、この向島市で馬鹿をやろうという真の馬鹿は少ないけど、それでもいるわ。半分くらいは暇つぶしで殺しておいてあげたけど、隠れている奴らまで探すのは面倒だから気をつけてねって忠告しに来たの」
「――なぜだ。私とお前は、数える程度しか会ったことはないだろう。そんな私のために」
「あ、誤解だから。学校の神の、萌葱ちゃんだっけ。萌葱ちゃんのためじゃないから」
萌葱の質問に、愛ちゃんは笑う。
楽しそうに、つまらなそうに、馬鹿にするように、揶揄うように。
「夏樹くんの通う……っていってもあまり行ってないけど、中学校に余計な火種はいらないのよ。萌葱ちゃんも先生になったんだから、最後まで先生でいなさい。あなたのような純粋な願いは……伝説の木の下で告白はさておくとして……叶えられたんだから、いつか消えてしまう日までしがみつきなさい」
「……愛の女神」
「それだけ。じゃあね」
セーラー服のスカートを揺らして愛ちゃんが歩き出す。
萌葱は驚きを隠せずにいた。
本当に善意の忠告だけで、「あの」愛の女神が会いに来てくれたのだ。しかも、脅威を半分消してくれたというのだ。
「ひとつ、ひとつ聞かせてくれ」
「なあに?」
「愛の女神にとって由良夏樹はなんなんだ?」
「――ひみつ」
愛ちゃんはそれだけ言うと消えた。
「……秘密か。ならば詮索はしない。だが、まあ、なんだ。由良夏樹から伝説の木の下で告白されても丁重に断ることにしよう」