作品タイトル不明
63「妹が暗黒面に堕ちたんじゃね?」①
祐介は念入りに洗った。
どこを、とは言わないが念入りに洗いに洗った。
洗いすぎて痛くなってしまったが、そこは腐っても勇者だ。回復魔法を使って元気いっぱいになり、いざ部屋に戻る。
祐介の次にお風呂に入ったのはソーニャだ。
彼女が部屋にくれば、初夜の始まりである。
お風呂に入る前に、意味深に目配せしたソーニャを思い出し、胸が高なってしまう。
パジャマを着てベッドの上に正座していた祐介だが、落ち着かずにベッドの上を掃除を始める。
さすがに掃除機は使えないので、粘着クリーナーで念入りに掃除を行う。
枕元はもちろん、シーツの上も何度も何度もゴロゴロする。
――こんこん。
ノックが響いた。
「ひゃいっ、どうぞっ!」
どくん、どくん、どくん。
かつてないほど心臓が暴れてしまう。
緊張に包まれた祐介が部屋の入り口に顔を向けると、そこには妹ひなたがいた。
「あれ? ひなた?」
「おにいちゃーん」
おかしい。
いつもこんな素直にお兄ちゃんとは呼ばない。
普段は「兄貴」とツンケンしているのだ。
もちろん、素直にお兄ちゃんと呼べず頑張って兄貴と呼んでいることは知っているし、ふとした拍子にお兄ちゃんと呼んでくれるので気にしてはいない。
むしろ好ましく思っている。
――しかし、なぜ今来たのだろう。タイミングが悪すぎる。
「あ、あの、ひなた。僕は見ての通り精神統一に忙しいんだ。最近構ってあげられなかったことは反省しているけど、ゆっくり話をするのはまた明日ってことで」
「だーめー」
不思議と笑顔にひなたが怖い。
春だというのに、背筋に寒気を覚えたのはなぜだろうか。
「ひ、ひなた?」
ツンケンしている妹とは思えない甘い声を出すひなたを見て、祐介は悲鳴をあげそうになった。
それもそのはず、ひなたは笑顔だが目が全く笑っていない。
闇のような漆黒に染まった瞳をしていた。
(ぴぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!)
悲鳴を漏らさなかったのは奇跡だった。
なぜひなたがこのようになってしまったのか不明ではあるが、彼女の雰囲気には覚えがある。
――暗黒面に堕ちている。
祐介もソーニャに出会うまでは、よく暗黒面に堕ちていた。
常連と言ってもいい。
暗黒面さんとはもう友達と言っても過言ではなかった。
(どうしてひなたが暗黒面に落ちているの!?)
何が起きたのは理解できず、祐介はただただ震える。
何か余計なことを言ったら、妹を刺激してしまうかもしれない。
そんな思いから、静かにひなたの言葉を待った。
すると、ひなたははにかんだ笑みを浮かべる。
「私ね、お兄ちゃんが人外しか愛せない度し難い変態だろうと、向島市の三大悪夢と名高い由良夏樹と付き合おうと、だっさいグラサンメガネや胡散臭い白髪糸目と仲良くしても余計な口出しをするつもりはないんだよ?」
「……向島市の三大悪夢って夏樹くんのことだったんだ。噂には聞いていたけど、びっくり。あとふたりって誰だろう? ていうか、千手さんと東雲さんの言われよう。涙が出そう」
「恋人でも婚約者でも、普通の女の子を連れてくるだけだったのなら、驚きはしても悲しみはしても祝福できたんだと思う。お兄ちゃんもようやく世間に顔向けできる趣味嗜好になったんだねって」
「……僕ってそんなに駄目!?」
「でもね、まさか本当に人外っ子を連れてくるとは思わなかったよ! お兄ちゃんは騙されている! そんな都合よく人外っ子がお兄ちゃんに好意を抱くなんてありえない! おそらく、ソーニャ・シラーは妖怪か何かでお兄ちゃんは初夜で食べられちゃうんだ!」
「なにそれ、望むところなんですけど!」