作品タイトル不明
48「イベントの始まりじゃね?」③
「あれ? 今、うわって言った? なに? どういうこと? うわってなに?」
少女は夏樹の顔を見て、さらに数歩引いた。
「うわ……うわぁ、おじいちゃんが褒めていた弟子が、こんな子なんですね。うわぁ」
「この人、失礼! 何度もうわって言ったんですけど! どいうこと!?」
夏樹が憤り、詰め寄ろうとする。
しかし、夏樹が一歩近づけば、少女は二歩下がった。
「ちょっと!?」
「そもそもギャラクシー河童勇者ってなんですか? どうして河童がギャラクシーなんですか? 意味がわからないんですけど」
「あ、いや、その、真顔で尋ねられると、困るって言うかなんて言うか。えっと、河童勇者の俺が宇宙に行ったことでギャラクシーになってギャラクシー河童勇者になったっていうか、はい」
まさか真顔で尋ねられると思わず、若干たじろぎながら説明する夏樹に、少女は情け容赦ない言葉を浴びせた。
「つまり自称と?」
「自称じゃないもん! みんな俺のことギャラクシー河童勇者だって思ってるもん! 茨木童子さんだって最期の最期まで俺のことギャラクシー河童勇者って言ってくれていたもん!」
「そもそも、河童勇者の意味がわからないんですが。由良夏樹くん、君は河童じゃないですよね?」
「――――っ」
「……そんな馬鹿な、みたいな顔をされてもこっちがそんな馬鹿なって感じなんですけどね!」
夏樹はもう泣きそうだ。
瞳には涙が浮かび、ちょっとしたことで溢れそうだった。
「一番気になっているのが、河童大神ってなんですか?」
「か、河童大神様は宇宙を統べる偉大な――」
「あ、もういいです」
「最後まで言わせてよ! 聞いたのそっちじゃん!」
「戯言は聞きたくないので」
「戯言って言いやがった! ゆ、許さねぇ。河童大神様の御遣いたるギャラクシー河童勇者フォーエバー様に……」
「もしかして、何も考えずに勢いだけで喋ってたりしませんか?」
「そそそそそ、そんなことないもん! なっちゃん、ちゃんと考えて喋ってるもん!」
「自分のことをなっちゃんとか言うんですね。なんか気持ち悪い」
「この女本当に酷い! もう嫌! なんで初対面でこんなに言葉責めされないといけないの!?」
「……言葉責めって、言葉の端々から卑猥な感じがさっきからするんですよね。はぁ」
夏樹もそろそろ限界だった。
向島市一の紳士と名高い夏樹でも、ここまで心無い言葉を重ねられたら思うことはある。
「男の子には、引いちゃならない時があるんだよ!」
信頼する相棒である星槍さんはいないが、夏樹はもう戦うしかなかった。
魔王の愛剣であった『常闇の剣』をアイテムボックスから引き抜くと、構え、魔力を高めた。
「――河童斬りにしてやる」
「……いいでしょう。君の力を見ようと思っていたのでちょうどよくあります」
「さっそくぶった斬ってやりたいが、学校じゃなんだ。そこに見える河川敷で戦おう」
剣の鋒を河川敷に向ける。
遠く離れているが、夏樹の目には河童さんたちが水辺で戯れているのが見えた。
「構いません。私も学舎を破壊したくはありません。では、お先に」
とん、と少女は地面を蹴って消えた。
周囲から少女の気配が消え、いつの間にか聞こえていなかった校舎からの喧騒も耳に届く。
ふう、と大きく息を吐き出した夏樹は、
「さーて、午後の授業が始まっちゃう! なっちゃん、午後の授業を頑張っちゃおう!」
真面目に授業に出ることにした。