作品タイトル不明
47「イベントの始まりじゃね?」②
「……誰、ですって?」
黒髪を斜めのおかっぱにした十六、七歳ほどの少女は、明らかに夏樹に怒りを抱いていた。
「……え? 知り合い?」
初対面の人間になぜ、こうも怒りを覚えられているのかわからず夏樹は困惑する。
同時に、彼女から感じ取れる力が自分よりも遥か上にあることに、動揺を隠せない。
「なぜまるで初対面のような顔をしているのですか? 私は、昨晩、君に尋ねましたよね。――由良夏樹ですか、と!」
「…………………違うでごわす! 拙者、由良夏樹などという向島一のナイスガイではないでごわす! 拙者の名は」
「ビキャー・ク・スッキー・カッパー男爵とか言うつもりじゃないですよね?」
「――――――なん、だと」
夏樹は震えた。
目の前の少女は、力が凄まじいだけではない。
未来まで見えるとでも言うのか。
「言っておきますけど、このやりとりは昨晩していますからね!」
「…………」
「…………」
夏樹は、お弁当箱を包むと、スクールバッグにしまう。
携帯電話を制服のポケットにしまうと、小走りで屋上から走り去ろうとした。
「あー! もう授業が始まっちゃう! 学校一の真面目なボーイなっちゃんは五分前行動が基本なのでさよーならー!」
「……さすがにそんなふざけた態度でこの場から去れると思っていませんよね」
「――くっ」
(やばいやばいやばい! なになになに、なんでなんでなんで? 誰この人こわい! 神々とか魔族とか新たな神々とかじゃなくて、人間でこんなにおっかない人が……人間? あっれー? 人間? 人間、ぽいけどなんか違くね?)
正直、今の夏樹では勝てる気がしない。
目の前の少女からは、魔王サタンや天照大神を彷彿とさせる力を感じている。
魔王や太陽神がそうであるように、彼女も力の全てを窺えるわけではない。
力は抑えているのだろう。
無意識に漏れている力の「上澄み」だけで、夏樹とは大きく差があるとわかる。
(やばい、けど、逆にチャンスだ。これだけ強い力を持っているのなら、月読先生が白馬に乗って助けに来てくれるはず!)
ならば夏樹は時間稼ぎをするだけだ。
「言っておきますが、助けは期待しないほうがいいでしょう」
「――っ」
まるで夏樹の考えを読み取ったように、少女が唇を釣り上げた。
「この街には特殊な人々が多いようですが、私の力を把握できる者がどれだけいるでしょうか。私は、君に力を示しているのは、そうしようとしているからです」
「そんな強い人が俺に何か用ですかー?」
夏樹は会話を試みるふりをして襲い掛かろうとしたが、相棒である星槍さんが手元にいないことを思い出した。
(――やべ)
紳士な夏樹は、初対面の少女にいきなり襲いかかることはせず、まずは会話をすることに決めた。
「実は、ビキャー・ク・スッキー・カッパー男爵とは、世を忍ぶ姿。俺の名は、由良夏樹。河童大神様に仕える河童の守護聖人であり、ギャラクシー勇者です! しくよろ!」
「――うわ」
ちゃんと名乗った夏樹に対し、少女はどん引いた顔をして一歩後退した。