作品タイトル不明
間話「遭遇のまもんまもんじゃね?」
――青森某所。
四月の春の早朝。
まだ少し寒さの残る青森の朝は、空気が澄んでいて心地がいい。
もんぺ姿のさまたんは、朝食前に畑で作業をしようとして玄関を出て、
「どうぇ?」
変な声を出した。
それもそのはず、玄関の前にはふんどし一枚のマモンが一升瓶を抱きしめて眠っていた。
ご丁寧に、玄関に向かい大股開きだ。
「さまたん、意味わかんない!」
近所が遠くてよかったと思う。
「いやいやいやいや、なんでなんでなんで?」
昨晩、寄り合いと言う名の飲み会に行ったマモンだが、夜中になっても帰ってこなかった。
さまたんも何度か寄り合いに出席したことはあるし、婦人会と言う名の飲み会にも定期的に参加しているので夜遅く飲んでいることは知っている。
場合によっては、会場となったお宅で朝までコースも珍しくない。
「……七つの大罪の魔族が、サタンを倒すために娘を人質に取ろうと暗躍した魔族が……これかぁ。なんか悲しいなぁ」
まだ太陽に光は強くないが、不思議と目にしみる。
上を向かなければ、涙が溢れそうだった。
「長い間、私を魔王にしようと暗躍し続けていた大魔族の成れの果てだなぁ。これって私のせいでもあるのか?」
マモンはさまたんを魔王にしようとしていた。
かつてさまたんはサタンに敗北した魔族の中の魔族だ。
本来ならば、上位魔族として魔王に次ぐ実力者として魔界の一角を支配していてもおかしくない。
だが、さまたんはそれを望まず、現役引退をしてふらふら人間に混じって生きていた。
ようやく青森の地で永住を決めて、世話になった老夫婦の後を継いで農家を営んでいる。
長い時間をかけてやりたいことを見つけたさまたんに対し、マモンはさまたんを魔王にすることを諦めることができずにいたのだ。
しかし、由良夏樹によって倒されたことで、マモンの野望は潰えた。
そして、さまたん預かりとなって青森に来たが、なんだかんだと楽しそうだ。
もしかしたら、マモンはさまたんと一緒にいたかっただけなのかもしれない。
――そんなマモンがふんどし一枚で一升瓶を抱えている姿は、魔王サタンと殺し合いをしたさまたんでさえ言葉にできない。
「ていうか、エグい角度のTバックを愛用しているくせに、どうしてふんどしになってるの!? 持ってたっけ!?」
とりあえず、手にしていた鍬でマモンを突いてみた。
ぱちり、とマモンが目を開ける。
「――まもんっ!」
そして飛び起きた。
「なになになに!?」
「こ、これはさまたん様。――おや、もう朝でまもんまもん?」
「……えっと、簡潔に答えて欲しいんだけど、何があったの?」
絶対碌でもないことだと思いながら、一応は身柄を預かる上司として聞いておいた。
「――実は、高橋のおじいちゃんたちと飲み明かしたあと、周平たちを連れて家で二次会をしようとおもったのでまもんまもん。すると、――ツチノコと遭遇したのでまもんまもん!」
「いや、それはない。UMAはいない! UMAみたいな私たちよりもUMAな存在はいない!」
「しかし、この目で見たのでまもんまもん! とにかく捕まえようと追いかけたのでまもんまもんが……とてつもない強さでまもんまもん」
「戦ったの!?」
「まもん! 攻撃によって衣服を破られ……まもんっ、周平たちはどこでまもんまもん!?」
「おま、周平たちと一緒にツチノコ? に返り討ちになったのかよって、周平が木にぶら下がってるぅううううううううううううううううううう!」
近くに木の枝に洗濯物みたいに干されている周平を見つけ、納屋の籠に頭からつっこまれている少年たちを見つけて無事保護した。
マモンを含めて怪我らしい怪我はしていない。
誰もがツチノコを見た、と口にしている。
「……まじかぁ、ツチノコまじかぁ。ていうか七つの大罪の魔族をぶっ飛ばせるってツチノコこわっ! あとなんでお前はふんどしなんだよ!」
「……まもん!? い、いつのまに……これはもしや、ツチノコの仕業でまもんまもん!?」
「ツチノコの仕業であったとして、お前のパンツにどんな価値があるんだ!?」
「知りまもんまもん! くっ、おのれ……ツチノコめ……このまもんまもんにこのようなまもんまもんな屈辱を与えるとは……捕まえてハブ酒にしてくれるでまもんまもん!」
「いや、ツチノコはハブじゃねえから。それじゃあツチノコ酒だろ。ていうか、まじでツチノコ見つけたら生かして確保しろよ!? いいな、絶対だぞ!」
――本当にマモンたちがツチノコに遭遇したかどうかは別として、珍しく青森は慌ただしかった。