作品タイトル不明
13「思うことがあるんじゃね?」③
「ちょ、夏樹くん!? さっきから静かだと思ったらどうしてアイス注文してるの!?」
「ごめん、ごめん。食後のデザート食べたくなっちゃって」
「そうじゃなくて! 今、杏をどうするかって話をしているんだけど!?」
「うん。そうだね。大変だねー」
「……夏樹くん。いや、まあ、夏樹くんのことを考えたら、その態度は仕方がないんだろうけどさ」
夏樹にとって綾川杏は、「もうどうでもいい存在」だ。
かつて義父だった綾川誠司と、母由良春子が杏を気にかけているから、異世界から連れて帰ってこられるよう協力した。
だが、夏樹は異世界で殺してしまってもよかったのだ。
一登が杏を想い、連れて帰りたがっていたから彼に任せ、結果的に一緒に戻ってきただけ。
――夏樹からすると、もう十分すぎるほど綾川杏を気にかけた。これ以上する義理はない。
「ごめんね、一登。俺はあの子にもう興味がない。俺が行動しているのは、お前が心配だから。誠司さんが心配だから。お母さんが心配だから。それだけだよ」
「……うん」
「冷たいって思ってくれて構わない。俺はこういう奴だからさ」
「ううん。杏が夏樹くんにしたことを考えると、十分すぎるほど力を貸してくれたよ。ありがとう」
少し、気まずさを覚える。
一登に悲しげな顔をさせたかったわけじゃない。
(せめて興味のあるフリをしていればよかったなぁ)
「大変そうね、はい。アイスはサービスしてあげる」
「リリスさん、あざっす!」
リリスが、プレートに綺麗に飾られたシフォンケーキと三色のアイスクリームを夏樹の前に置く。
にこにこ笑顔で夏樹がナイフとフォークを手に取ると、まずシフォンケーキを味わう。
ふんわりした食感とやさしい甘さが心地よい。
「うまー」
続いてメイプルシロップをかけていただく。
濃厚な甘さが加わることで、シフォンケーキの新たな側面を見た気がした。
だが、まだ終わらない。
次はアイスだ。
まずは王道のバニラアイスを添えてシフォンケーキを頬張る。
バニラの甘さにメイプルシロップが加わるが、くどくはない。バニラアイスによって、シフォンケーキしっとり感が足されることで食感が変わった。
「……口の中が幸せ」
「ふふ、ありがとう」
リリスは夏樹の頭を撫でると、カウンターに戻ろうとしたリリスを小梅が引き留めた。
「ママ! バニラアイスとシフォンケーキを!」
「私は、シフォンケーキとチョコレートアイスでお願いしまっす!」
「あたいは由良夏樹と同じもの!」
「俺は、シフォンケーキだけでお願いします」
小梅、銀子、虎童子、千手は心から美味しそうにシフォンケーキを頬張る夏樹の姿に我慢できなくなり、それぞれ注文する。
「あの、ゴッドも同じのを。一登くんも一緒でいいですか?」
「あ、はい」
「君の真面目さ、優しさはゴッド的に好ましく思います。しかし、ときには肩の力を抜くことは大事ですよ。根を詰めたからといっていい結果になるわけではないのです。まずは、落ち着きましょう」
ゴッドが一登を励ます。
一登の良いところをちゃんとわかっているようだ。
(……あの子が逃げるのも向き合うのも、あの子の選択なんだよね。どれが間違っていてどれが正解なんて俺にはわからない。どの選択をするのかはあの子の権利だし、その結果どうなるのかはあの子次第だ。――とは言わない方がいいんだろうなぁ)