軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8「七森家当主が動くんじゃね?」

七森家。

当主七森康弘は、側近から報告を受けていた。

「……淳也様からご連絡がありました」

「……間に合ったか?」

側近は残念そうに首を横に振った。

「そっかー。間に合わなかったかー」

「千手様はその、英智様を停止はしなかったようなのですが」

「なにかあったのぉ?」

「謎の中学生が現れ英智様の股間を全力で蹴り上げたそうです」

「ひえっ、息子が娘になっちゃうぅ!」

「……リアクションうぜぇなぁ」

「側近!? 今、なんか酷いこと言わなかった!?」

「いえ、何も言っていません」

「そっか、気のせいだったか。歳かな? 一応、言っておくけど、言葉遣いには気をつけてね。傷つきやすい年頃だから。頼むよ」

「………………もちろんです」

側近は咳払いをして、手にしていた資料を捲る。

「にわかには信じられないのですが、淳也様が言うには――千手様は虎童子とできているそうです」

「なんて?」

「虎童子とできているんですって! 京都の鬼さんの虎童子です!」

「酒呑童子の娘の?」

「はい」

「茨木童子の妹の?」

「はい」

「ググってもあまり逸話は出てこないけどかなりやばい虎童子さんと?」

「はい。あくまでも、虎童子を自称している鬼と、できていたということです」

「……やるな千ちゃん。禁断の恋か。そういうの萌えるよね」

「千ちゃん!?」

「我が息子に決まっているだろう!」

「あんた今まで千手様のことを千ちゃんなんて言ったことないだろ!」

「心の中では言ってたんだよ!」

「もうやだこの人! 停止から解けたと思ったら、なんかスッキリした顔して小悪党感なくなっちゃったし!」

「溜まりに溜まっていたビッグウェーブと一緒に出ちゃった!」

千手によってトイレで停止されていた康弘は、解放されたと同時に解き放ったビッグウェーブと一緒に、院の中でのしあがろうとか、子供たちを利用して七森家を大きくしようとかいう野望も出てしまったようだ。

残ったのは、気さくなおっさんとしての康弘だけ。

「……奥様はお怒りです」

「だろうな」

「御息女百恵様は引きこもっております!」

「大変よね! 今はサブスクがとっても充実しているからお部屋から出てこなくても娯楽に溢れているもんね!」

「……七森家の分家は淳也様を当主にすべく指導を行っていました。奥様も反対こそしていませんが、英智様が解放された以上淳也様を排除するでしょう」

「英智は当主の器じゃない。短慮すぎる。それでも、実力があればいいんだが、並だ」

「奥様は良くも悪くも七森家を支えてきました。分家との関係は過去最悪になりましたが、頑張ってはおられました」

「俺が復活したというのに分家共が挨拶にこない理由はそれが理由か」

「はい。奥様が、分家は本家への立ち入りを禁止しています」

「なんでぇ? 分家なくして本家が盛り上がるわけないのに、なんでそんな酷いことするのぉ! 分家って言っても、元は本家の別れだよぉ!」

「奥様が! 勝手に! やったんですよ!」

「とめてあげてよぉ!」

「当主の側近である私に、当主が不在でどんな発言権があると!」

「そこをなんとかするのが側近の役目じゃーん! 昔から支えてくれたマブダチじゃーん!」

側近は、涙を流した。

当主がマブダチと呼んでくれたことに嬉しかった――というわけではない。

ただただ悲しかったのだ。

「うわーん! 僕の幼馴染みの康くんをかえせよぉー! 小悪党で短慮で、配慮も何もない傲慢な康くんを返してよぉ!」

「ひどい! そんな風に俺のこと思ってたの!?」

「うわーん!」

「もう絶交だ!」

いい歳をしたおっさんたちは涙目でお互いをポカポカ殴り合った。

三十分後。

何もなかったかのように七森康弘は表情を引き締める。

「――千手とは私が直接話をしよう。今後の関係はさておくとして、まず謝罪だ。筋を通そう」

やはり何もなかったように側近が恭しく頷く。

「かしこまりました。手配をさせていただきます」

――七森家当主。七森康弘が向島市に向かうことになった。