作品タイトル不明
6「千手さんの弟も来たんじゃね?」①
悶絶する間もなく気絶した英智がその場に倒れると、夏樹はやり切ったイイ笑顔を浮かべた。
「ふう! 悪は去った! んで、こいつ誰?」
「……言いたくはねえが、俺の兄貴だ。血は半分しか繋がってねえが」
「……千手さんのブラザー!? あれ? 千手さんのブラザーとファーザーは停止でトイレで停まっているんじゃなかったっけ?」
「なぜか動き出しやがった。それで、恨みを晴しにきたわけよ」
「危なかったね!」
「全然余裕だったけどな! ていうか、由良ぁ! どうしていきなり現れたんだよ! そっちの方がびっくりだわ!」
千手の隣で同意するように虎童子が頷いている。
「えっと、十分くらい前にメッセージを送ったんだけど」
「それはすまん。今見た」
「いいよ、いいよ、俺はてっきりタイガーさんといちゃついているから気づかないと思って呼びにきたんだよ。そうしたら、変態がいるじゃない! あー、怖かった!」
「よく言うぜ。ていうか、やりすぎだろ!?」
「何言ってるの、向島市では犯罪者はぶっ殺しても罪にならないんだよ!」
「んなわけあるか!」
「それにゴッドがいるじゃない! ゴッドパワーで変態のひとりぶっ殺しても無かったことにしてくれるって!」
「権力持たせると一番やべえ奴だな! いや、持たせなくてもやべえ奴なんだけどさ!」
「絶好調だね、ダーリン!」
「おかげさまでな!」
血圧が上がって倒れるんじゃないかと心配になる程、千手は突っ込み続ける。
夏樹としては、もう倒れて意識を失っている変質者に興味はない。
「千手さん、早くゴッドのところ行こうぜ」
「……お前は本当に……まあいい」
「え? ダーリン、この一応お兄さんを置いていっていいの?」
虎童子が、さすがにどうかと言うも、千手は気にした様子はない。
「どうせお守りがいるさ。英智は一度頭に血が昇ると馬鹿をするから、監視がついていたはずだ。今も視線を感じる。回収は任せればいいだろう」
「……この視線、監視だったんだ。あっぶね、つい攻撃するところだった」
夏樹がセーフ、と手を広げた。
夏樹も視線を感じていたので、攻撃を仕掛けようと考えていたところだった。
視線の主は、十分に距離をとっているつもりだろうが、夏樹にとっては間合いの中である。
「やめてやってくれ。分家のやつだったら、それなりに知り合いだから心が痛む」
「うっす! んじゃ、ゴッドのところ行こう! ていうか、綾川さんのことだって俺はどうでもいいんだけど、一登だけじゃ大変だろうし」
「……由良は本当に……ドライというか、なんというか」
「鬼でももっと情があるような」
異世界で過去の因縁を解決しても、夏樹は変わっていない。
それがいいことなのか悪いことなのか、千手はわからないので複雑な顔をした。
「あ、動いた」
夏樹は、監視しているという視線の主が動いたことに気づいた。
虎童子が自らのお腹に手を当てる。
「え? ダーリンの赤ちゃんはまだあたいのお腹の中にいないけど! ちょっと膨らんでいるのは食べすぎただけだからな! 元から出ていたわけじゃないからな!」
「虎童子余計なこと言うなぁ! 由良もあらまあみたいな顔をすんなぁ!」
千手が全力で突っ込んでいると、学生服を着た少年が公園に降り立った。
音もなく静かだ。
結構な距離を一瞬で詰めたことといい、身体能力が高いことと、霊力による聖力をうまく使えているのだとわかった。
「……お前は」
千手が目を見開いた。
「久しぶりだね、千手お兄さん」