作品タイトル不明
3「千住さんの兄じゃね?」①
七森千手と虎童子は近くの公園にいた。
電灯に、まるで覚えていなかった千手の兄――七森英智を、近くに落ちていたロープでぐるぐる巻きに縛りつけた。
「ふう、いい仕事した!」
「絶好調だな、虎童子ぃ!」
「ダーリンったら、照れないでよ。初めての夫婦の共同作業だからって」
「めちゃくちゃ嫌な共同作業だな」
「あ、異世界で新たな神と戦った時が初めてだったね! とらぴー、てへへ」
「……自分でとらぴーとか言い出しやがった。誰か、助けて。俺には対処できねぇ」
人が来ると困るので人払いを貼ってある。
霊能関係者でなければ、「なんとなく」公園に近づくのはやめようと距離を取るだろう。
「おーい、英智。おい、稽古で一度も俺に勝てず、使用人から嫌われて、分家の連中にも次期当主としてどうなの、とか言われてた英智くーん。起きようねぇ」
「意外と覚えてるじゃん、ダーリン!」
「一度、思い出したら記憶が蘇ったよ。ぶっちゃけ、由良たちと知り合ってからの日々が濃厚すぎて、過去のどうでもいい記憶が埋もれてた」
「……それはわかる。あたいも由良夏樹と愉快な仲間たちと過ごした時間は短いのに一千年以上生きていた中で一番濃厚かも。特に佐渡祐介がやべぇ」
「うん。佐渡はやべぇ。それは間違いない」
うんうん、と千手と虎童子が仲良く頷いていると、英智がゆっくり目を開ける。
「――っ、千手! 貴様!」
「よう、英智。久しぶりだな――っていっても、お前にとってはつい先日のことか?」
「貴様ぁ! 私と父上を数年もの間停止させておきながら、かける言葉がそれかぁああああああああああ!」
「便所の瞬間ってマジで気が緩むよな。あんたたちにしたことをきっかけに、俺はトイレじゃ絶対に気を抜かないように心がけてるぜ」
「どこまでもふざけたことを! 俺が、俺があの瞬間、どんな思いでトイレに入ったと思う!」
「いや、知らねーよ」
「夜中に帰ってきた俺は、遅い夜食を食べたんだが、どうやら傷んでいたようで……眠ったと思えば朝にビッグウェーブが」
「やめて! それ以上はやめて! ――っ、まさか、お前!」
「……やめろ。それだけは聞かないでくれ、お前に慈悲があるのなら、少しでも人としての慈悲があるのなら聞かないでくれ。思い出したくない」
「あ、うん」
涙を流す英智に、さすがの千手もそれ以上追求はしたくなかった。
したくもなかった。
虎童子が千手の耳元に「ビッグウェーブ間に合わなかったんじゃ」とか言っているが、知らない。
「んで、よく俺の停止が解けたな。後先考えずに思いっきり停止させてやったのに」
「ふざけるな! ……いや、まて、お前が停止を解いたわけじゃないのか?」
「解いてねえよ。お前の母親が毎日電話でキンキン停止を解けとか言ってきていたけど、今日はなかったから諦めたのかと思っていたんだけど」
「――っ、まさか俺の霊力が千手の停止を超えた」
「いや、それはねえだろ。お前は停止していたんだから」
「――っくっ、おのれ!」
英智は再び怒りが湧いてきたのか、千手に向かって吠えた。
「千手! 貴様のせいで、貴様のせいで依頼料ためてようやく買った最新のノートパソコン、スマホ、タブレットが使ってもいないのにサポート期限が過ぎていたんだぞ!」
「……なんかごめんね」
「応援していた動画配信者が結婚して引退していたし!」
「知るか!」
「ここに来るまでに動画を見ていたら、まもんまもんが人気なんだが、なんだあれは! 意味がわからん!」
「俺だって意味がわからねえよ!」
「姉貴が結婚できない引きこもりババァになっていてざまあみろ!」
「喜んでんじゃねえよ! でも、俺も嬉しい! ざまあみろ!」
「――ダーリン!? 割と兄貴と仲良いんじゃない!?」
虎童子が驚くと、
「――んなわけあるかよ!」
「――そんなわけあるか!」
千手と英智が同時に叫んだ。
「めっちゃ息合ってるじゃん。とらぴージェラシー!」