作品タイトル不明
2「謎の襲撃者じゃね?」
急に千手の名を叫んだのは、二十代半ばほどの男だった。
真ん中で髪を分けた男は、袴姿だ。手には、日本刀を持っている。
明確な敵意があることを受け取り、千手は虎童子を背に庇うように前に出た。
「…………何者だ?」
何に怒りを覚えているのか不明だが、強い霊力を感情に任せて荒ぶらせているのがわかり警戒する。
千手はあくまでも霊能力者だ。
夏樹や祐介のように異世界帰りの勇者ではないし、一登のように聖剣に選ばれたわけではない。
東雲と円、澪と都のように血筋に恵まれた霊能力者でもない。
あくまでも七森千手は凡人だ。
凡人の中で、足掻いているだけの弱い人間なのだ。
「どこのどいつだか知らないが、人の名前を怒鳴りやがって。夜に、でけえ声だして、常識がねえのか?」
向こうは千手を知っているようだが、千手はまるで心当たりがない。
恨みを買う商売をしている自覚はある。
同業者から仕事を奪ったことから、表では捌けない人間を秘密裏に処理したこともある。
恨まれていないなど口が裂けても言えない。
「……貴様ぁああああああああああああ! 私を、この私をわからないというのかぁああああああ!」
「うるせえなぁ。知らないから知らないって言ってんだよ。名刺を出せとは言わないが、せめて名乗りやがれ、このタコ」
「ふざけるなぁああああああああああああああああああああああ!」
男は刀を抜き、突進してきた。
激昂していることは間違いないが、刀を構える姿は基本に忠実だ。
これで殺意がなければ拍手したかったが、そうはいかない。
「はぁ、面倒臭えなぁ。――止マ」
血走った目を向けて刀を構えて踏み込んできた男を停止させようとした千手――よりも早く虎童子が男の顔面に拳を叩きこんだ。
「ダーリンといちゃいちゃしてたのに邪魔してんじゃねえよ、この三下がぁ!」
「えぇ……」
男は十メートルほど吹き飛ぶと、背中から地面に落ちて転がっていく。
「…………おの、れ……千、手……化け物を、護衛に……する、とは……」
そう言い残して男は意識を失った。
「いや、マジであんた誰だよ?」
男の身元は最後までわからなかった。
「この男って本当にダーリンの知り合いじゃないの?」
「マジでわからねえ」
「うーん、じゃあ調べようぜ!」
「調べるってどうや……ああ、そういうこと」
虎童子は、男のそばにいくと袴を引きちぎった。
あっという間に下着姿になった男に同情を浮かべるが、襲いかかった方が悪いと思っておくことにした。
「あ、携帯あったよ!」
虎童子が男の袴から携帯電話を投げてよこす。
受け取った千手は、眉を潜める。
「綺麗な携帯だが、ずいぶん古い機種だな。お、パスワード設定してないじゃん。どれどれ…………あ」
千手が携帯電話を操作している途中で動きを止めた。
「どうしたの、ダーリン?」
「ものすっごく言いづらいんだけど…………こいつ俺の兄貴だわ」
「タイガーぁああああああああああああああああああ!?」