作品タイトル不明
1「なんかイチャついてね?」
七森千手は夜だというのにサングラスをかけて、虎童子と一緒に向島市の住宅街を歩いていた。
魔眼を持て余していた千手は、術を施したサングラスをかけることで魔眼が暴発することを抑えていた。
千手の魔眼は力が強いため、絶対に暴発しないというわけではなかったが、あるとないのでは安心感が違った。
しかし、今の千手には魔眼を封じるサングラスは必要ない。
京都の一件の際、古の霊能力者蘆屋道満によって魔眼の調節をしてもらったのだ。
まだ使いこなせてはいないが、制御はできるようになった。
暴発することは余程のことがなければ、ないだろう。
二十年以上、魔眼の暴発に怯えていたこともあり、今更サングラスを外すことには抵抗がある。
自分のトレードマークのひとつだと思っているし、結構値も張るのだ。
魔眼を使い新たな神々と戦ったことで精神的に成長できたと思っているが、まだサングラスを外して日常を過ごす勇気がなかった。
「あー、おいしかったね、ダーリン!」
「そうだな。って、マジで家に来るつもり?」
「姉貴たちには連絡してあるぜ! 東雲と円もごゆっくりって言ってくれたぜ!」
「あ、あの兄弟……いつか見てろ」
絶対に、こっちが困っていることを見越した上での台詞だろう。
東雲に至っては、なんやかんやと茨木童子と再会して、関係はやり直しだ。
円も、一度死んだ茨木童子が蘇ったからととやかく言うつもりはないと、複雑な顔をしながら言っていた。
茨木童子の被害者である夏樹に至っては、何も気にしていないどころかフレンドリーだ。
異世界に勇者召喚されて星を滅ぼす力を持つ槍に選ばれた男は、凡人の自分には感覚がわからない。
「ダーリン、ダーリン!」
「なんですかー。あと、ダーリンって言わないでぇー」
「ダーリンはダーリンじゃん! それよりも、服ありがと!」
「もうお礼は何度も聞いたよ」
「それでもありがと!」
「はいはい」
虎童子は千手に衣類を借りていたが、サイズが違う服を頑張って着ている姿に「服くらい買ってやるか」と思ったのだ。
断じて、「……ダーリンの服を借りているあたいって超お嫁さん」とか言う虎童子に危機感を覚えたからではない。
最初は遠慮した虎童子だったが、折れて「安くて可愛いのがいい」と本音を口にした。
鬼らしく和装が主であったようだが、部下の鬼の結婚式で洋服を着たことや、異世界突撃の際に制服を着たことで、洋服の可愛いものを着たいという願望を抱いたそうだ。
千手は夕食の前に、誰でも一度はお世話になるディスカウントショップに向かい、虎童子に好きな服を選ばせた。
流行りや組み合わせを定員に聞き、試着して、虎童子はご満悦だった。
勘違いした店員が「可愛い彼女さんですね」とか言ったせいで気をよくしてもいた。
そんな虎童子は、ショートパンツにサンダル、パーカーと言ったラフな格好を選んだ。
店員は可愛いカーディガンを勧めてくれたが、いきなりそういうのは難しいようだ。
ただ、千手は二、三枚買ってやる予定だったので、そのカーディンと、スウェットパンツ、あとは下着類を店員に見繕ってもらって購入した。
素っ気ないが、気遣ってくれる千手に虎童子が感激したのは言うまでもない。
何度か通っているステーキハウスでもご機嫌だった。
「ダーリンは由良夏樹たちとあとで合流するんでしょう?」
「まあな。ゴッド関連はあまり関わりたくはねえんだが、中学生たちをあまり夜に歩かせるわけにはいかないし、連いてくる大人が姉御たちだからな。いまいち当てにならねぇ」
「いい奴らじゃん」
「もちろんそれはわかっている。が、同じ大人として少々思うことはある。ってわけだ。部屋で自由にしていていいぞ」
「――っ、ダーリン!? 泊まっていいの!?」
「いや、泊まる気満々だろ。お前さんを蔑ろにして茨木童子たちに殴られたら俺は死んじまうからな!」
「今のダーリンなら、負けるにしても姉貴ともそれなり戦えるんじゃないか?」
「それなり戦えても死んじゃうじゃん!」
酒呑童子の娘に「それなり」と言ってもらえるくらいには強くなったのだろう。
今後も夏樹たちと一緒に行動するには、もっと強くなっておきたいと思う。
「ま、とりあえず、連絡来るまで部屋に戻っていようぜ」
「はーい!」
なんだかんだと良い雰囲気の二人がそろそろマンションに近づこうとした時だった。
「千手ぅううううううううううううううううううううっ!」
とても無粋な声が住宅街に響いた。