作品タイトル不明
プロローグ「まずは母を説得じゃね?」
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした!」
由良家の食卓で夕食の唐揚げ、玉ねぎと豆腐の味噌汁、にんじんと卵のシリシリ、マッシュポテトを食べた夏樹が手を合わせる。
夏樹に微笑んだのは、母春子――ではなく、夕食を作った魔王サタンだった。
「いやー、サタンさんのご飯美味しいなぁ。唐揚げはさくさくだし、味噌汁のお出汁もちょうどいいし、シリシリはめんつゆで味付けしているね。マッシュポテトなんてチーズが濃厚で最高だよ!」
「よせよ、夏樹。それほどでも――あるけどな!」
(……こういうところ、ゴッドに似てるなぁ。って、言ったら面倒なことになりそうだから、賢いなっちゃんはお口にチャック!)
「ごちそうさまなんじゃ! ――さっそく、食後のビールを」
「ごちそうさまっす! ――食後の水分補給という名のビールを」
「……ふたりとも、まだ出るでしょうに」
夏樹がそう言うと、小梅と銀子が肩を落とす。
本当に残念そうだ。
お酒の良さがわからない夏樹は、「向こうでもあれだけ飲んでいたのに」と不思議そうにしている。
「夏樹よ、また出かけるのか?」
「もう夜ですよ?」
居候中のリトルグレイ――美男美女に姿を変えているジャックとナンシーが、帰ってきたばかりの夏樹たちが再び出かけることを案じてくれる。
ふたりには異世界で大暴れしてくると前もって言ってあったので、無事に帰ってきたことを喜んでくれていたのだ。
「……夏樹? あなたはまだ中学生なんだから夜に出かけるのはお母さん許さないわよ」
「太一郎さん的にも同感だ」
「リヴァ子的にも春子お母さんを全面的に支持する」
「……この魔王と海獣め……事情知っているくせに」
母は、ファンタジーの住人ではないので夏樹が夜間に行動することを良しとしない。
コンビニやスーパー、ちょっと一登と話をするくらいなら許可はしてくれるが、用もなく家を出ることは絶対に許してくれないのだ。
こっそり家を出ても、翌朝に説教が待っている。
だからといって、事情をどう言えばいいのか。
「春子さん、自分が説明するっす」
「銀子ちゃん?」
銀子は夏樹にウインクする。
不思議と銀子が頼もしく見えた。
「先日、みんなで探した綾川杏さんのことっすけど」
「……見つかったの?」
春子が真剣な顔をして銀子に向き直る。
夏樹たちの体感だと違うが、春子にとっては杏を探したのはつい先日のことだ。
杏の居場所と行動を知っていた夏樹たちに対し、春子と、ここにはいないが杏の父綾川誠司はさぞ不安だっただろう。
一日とはいえ、中学生が連絡が取れず行方がわからないのだ。
普通なら、何らかの事件に巻き込まれたと不安になる。
新たな神々に魅入られて勇者となり異世界に行った、というのも十分に事件に巻き込まれているのだろうが、はやり伝えることはできない。
「実は、自分の知人が杏さんと似たような子を見たと情報をくれたっすよ。ただ、子供の溜まり場っすからね。大人が迎えに行けば警戒心を抱かれる可能性もありますし、周囲に根回ししている可能性もあるっす。不安なのもわかるっすけど、同世代の夏樹くんならそれほど警戒もされないはずっす。もちろん、私が、警察官であるこの青山銀子が見守っていますので安心してほしいっす!」
普段のおちゃらけた銀子でなく、警察官であり大人でもある銀子として振る舞うと、不思議と説得力があった。
(ノンアルコールの銀子さん頼りになるぅ!)
(ノンアルコールでこんなに人格変わるってやばいじゃろうて)
きりっ、としている銀子を見て頼もしく思う反面、夏樹と小梅は割と失礼なことを考えるのだった。