作品タイトル不明
間話「萌葱先生の大作戦じゃね?」
向島市立第一中学校――職員室。
「……月読命、話がある」
「月読先生、ですよ。萌乃萌葱先生」
「……申し訳ない、月読先生。ご相談が、あります」
「はい。では、場所を変えましょうか」
神であることを隠して教師をしている月読は、新たな神々の「学校の神」改め萌乃萌葱をスカウトしていた。
学校の思いから生まれた新たな神である萌葱は、教師になりたいという夢と戸籍を報酬に月読の部下となったのだ。
だが、普段はそれとは別にして、先輩教師と後輩教師として接している。
元々短期間だが各地を転々としながら勉強を子供に教えてきた萌葱の授業は評判がいい。
悩みにも乗ってくれるし、気さくだ。
少々、古いタイプの教師ではあるが、良くも悪くもこの中学校にもいる、素っ気ない教師や、上から押さえつけようとする教師などに比べると好印象の教師であった。
そんな彼女が険しい表情を浮かべている。
何かあったのかもしれないと思い、採点を中断し職員室の奥の部屋に移動した。
「何かありましたか、萌乃先生。――いえ、学校の神と言った方がいいかもしれませんね」
彼女の雰囲気から察するに、新たな神々の問題かもしれない。
現在進行形で、由良夏樹と愉快な仲間たちが異世界に遠征中だ。
先ほど、月読も行方を追っていた厄介な神である門の神が絶命したという知らせを受けて驚いている。
門の神は絶望の神と行動を共にしていたようで、由良夏樹によって倒されたようだ。
(奴を殺してくれたことは心底ありがたく思いますが……新たな神々に目をつけられてしまったと思うと、手放しでは喜べませんね)
月読は本来、地上で教師をしたり、新たな神々を相手に戦ったりすることが許されないほど高位の神である。
しかし、力を削り、神格をできるだけ落として人の枠になんとか収まる範囲にとどめることで、行動を許されている。
許されている、と言うのは語弊がある。
月読自身が、人や地上に与える影響を最低限にすると決めているのだ。
実際、素盞嗚尊は月読のような気遣いをしない。
月読は基本的に、新たな神々と戦う以外に力を使わないと決めている。
その決め事があるからこそ、いざという時にこの身でありながら神である時と変わらぬ力を使うことができる。
しかし、それ以外ではあくまでもギリギリ人間の範疇でしかない。
「――由良夏樹のテストの結果についてだ」
「――はい?」
つい間の抜けた声が出てしまった。
「あ、あの」
「なんだ?」
「新たな神々の動向などの話をするのでは?」
「なぜ私が奴らの話などしなければならない? 新たな神々と一括りにされているが、仲間ではない。絶望の神も、行き場がなかったから仕方がなく関わっていただけだ。それよりも、由良夏樹の小テストだ!」
「あ、はい」
ばんっ、とテーブルに叩きつけるように萌葱は数枚のプリントを置く。
月読が手に取り、確認した。
「はい。間違いなく夏樹くんの小テストのプリントですね。これがどうしました?」
「ちゃんと勉強できる子じゃないか!?」
「え、ええ。そうですね」
何を怒っているのか、と月読は首を傾げた。
夏樹は、授業はしっかりと受けている。
そして、だいたい授業で覚えたことは忘れない。
ただ興味のある無しが大きいためムラがあるが、授業中にふざける子ではないのできちんと学びテストは中の上から上の下というところだ。
「学校に来ない子だから、赤点ばかりだと期待していたのに!」
「……期待って。あのですね、彼が学校に来なくなったのは異世界から帰還した後に彼がトラブルに巻き込まれているせいであって、それ以前はサボり癖はありましたけど学校に来て授業を受けていましたよ」
人間関係が鬱陶しいので、学校に来ることを嫌がっていた夏樹だったが、親友である三原一登の存在が大きかったのだろう。
嫌な顔をしながら学校にはきていた。
サボり癖、と言ったが、サボるときも誰かのために動いていることが多かったので、月読は見て見ぬふりをしていたのだ。
「夏樹くんのトラブルのひとりは間違いなくあなたでしたけどね」
「――くっ、殺せ」
「……そういうのいいですから」
「ふん。だが、これでは由良夏樹に放課後レッスンドキドキ大作戦ができない! なんとかしてくれ!」
「なんとかって……その前に、作戦名なんか古っ!」
――向島市は割と平和だった。