作品タイトル不明
間話「最大の敵の予感じゃね?」
愛の女神こと愛ちゃんは向島市の方角をベランダから見つめていた。
「あら、なっちゃんたち帰ってきたのね」
嬉しそうに弾んだ声だ。
「なっちゃんったら、また強くなって。もうマモンじゃ勝てないわね。……動画勝負ならマモンの圧勝だと思うけど」
あずき色のジャージ上下を身につけ、夕日に照らされている愛ちゃんの手にはスーパーの惣菜コーナーで三割引きのシールが貼られている唐揚げのパックと箸が握られている。
「ぜっくんは負けて、死んじゃった。門の神はざまーみろ。問題は、もう新たな神々たちがなっちゃんを放っておかないってことよねぇ」
愛ちゃんとは違う愛の女神、遊戯の神が夏樹の情報を求めに愛ちゃんに接触してきていた。
だが、愛ちゃんはのらりくらりとかわして情報は与えなかった。
愛ちゃんにとって、新たな神々は仲間ではない。
味方でもない。
ただ、同じように生まれただけだ。
いや、生まれも愛ちゃんは違う。
愛の女神としてこの世界に生を受けたのは間違いない。
だが、感情もなにもなく、当てもなくずっと彷徨っていただけの存在だった。
そんな愛ちゃんに感情を、魂をくれたのは、新たな神々たちではない。
「マモンと蓮くんと組んだのもかつて間違えて与えちゃった力の回収が目的だったんだけど、このままじゃまずいわよねぇ。新たな神々ってだけでなっちゃんに敵に思われるのはよくないわ」
小さな口に大きな唐揚げをほおばらせながら、愛ちゃんは考える。
できることなら、夏樹たちの危機に颯爽と助けに入る予定だったが、彼らに危機が訪れていない。
絶望の神との戦いも異世界で行われたのでノータッチだ。
「こ、このままじゃまずいわね。どうしよう。おバカな奴らがなっちゃんにちょっかい出す前に、さらっと味方になるか……いっそ青森に言ってマモンと一緒にここぞというタイミングを伺うべきか……」
敵対するつもりなど毛ほどもないのだが、味方になるにしてもタイミングが重要だ。
リヴァイアサンやサタンのようにちゃっかり由良家に居座ってしまうポジションはなんか嫌だ。
さすがに義政のような貫禄あるポジションを狙うことはできないが、個人的に銀子よりもヒロインが出来そうな気がする。
とはいえ、今出ていっても駄目だ。
「……なっちゃんたちがピンチになるのは嫌だし、ピンチになる想像もできないけど、颯爽と助けに行きたいなぁ!」
愛ちゃんがそんなことを考えた時だった。
ぴこん、とテーブルに置いてあるスマホがなった。
「ん?」
室内に戻り箸を置くと、スマホを触る。
メッセージアプリに新着があったので開く。
すると、トークグループ『十天』に新着メッセージがあった。
「そういえば、とりあえず入ってくれって言われて入ったのよねぇ」
嫌だったが、活動を最低限にする事を条件に一応はメッセージアプリで繋がる事を了承した事を思い出す。
「――は?」
愛ちゃんはメッセージを見て絶句した。
信じられない内容が届いていたのだ。
「――絶望の神に変わり美脚の神が十天に加わりました」
「――なっちゃん対策じゃね?」
愛ちゃんが夏樹のピンチを望んでしまったからか、ある意味夏樹にとって有効的と思われる新たな神々が十天に加わってしまったのだった。