作品タイトル不明
106「帰ってきたんじゃね?」
――向島市。
「よ、ようやく帰って来た……長かった、マジで長かった……異世界では数日だったけど、体感では八ヶ月以上異世界にいた気がする」
「夏樹は何を言っとるんじゃ?」
夕方の向島市。
異世界に出発した喫茶店『最初の妻』の前に夏樹たちはいた。
アポローンと話をした夏樹とガネたんも、タイムラグなく戻って来ていた。
「帰ってきぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
長かった異世界転生の終わりに、夏樹が万歳をして叫んだ。
小梅たちも続く。
「春子ママさんのごはんが食べられるんじゃぁああああああああ!」
「故郷で飲むお酒万歳っすぅうううううううううう!」
最近の由良家の作る食事は、小梅の父サタンの手作りだし、銀子は異世界でも十分過ぎるほど酒は飲んでいた。
異世界でも地球でも二人はかわらない。
「ったく、ようやく慣れたベッドで寝られるぜ」
「ダーリンの部屋……どきどきしちゃう」
「ついてくるつもりなの!?」
電子煙草を咥えた千手に、虎童子がひっつく。
疲れた顔をした千手は、押しかけてくる気満々の虎童子に頬を引き攣らせた。
「あ、スマホが反応していますね。――異世界の日々が一日も経っていないなんて夢のようです」
「本当。あ、……ママとおばあちゃんたちにお土産買えなかったね」
「お姉ちゃんが無事なことがいちばんのお土産です!」
「ふふ、ありがと。都の無事もみんなにとって嬉しいお土産だよ」
「――っ、さすがお姉ちゃん! 至高!」
異世界では最低限の反応しかしなかったスマホが普段どうりに動き出すのを確認した水無月姉妹。
「やはり日本の空気が一番馴染むな。一日でいいから何もせずゆっくり寝たいものだ」
「僕も明日は幼稚園を休みましょう。疲れた顔をしていると、友人たちが心配してしまいます」
征四郎もようやく肩の力を抜き、彼の背中で神剣の化身である夜刀がにこにこして張り付いている。
義政は眼鏡に向島の夕日を反射させて、友人たちを想う。
「ボクたちはしばらく向島市に滞在することにしているんよ。散々京都で苦労したんや、しばらくはのらりくらりとお休みや」
「……せやね。学校もしばらく休んでもええね。僕も解放されたから、ゆっくりこれからのことを考えたいわ」
東雲と円が肩を組んでしばらくの休暇を宣言する。
向島市にいる方がトラブルに巻き込まれて休めない気がするが、それを指摘する者はいなかった。
「しののんが行くところなら私もいくわ!」
「姉貴姉貴! この街に、金童子いるんだぜ!」
「べあべあぁ!」
「あら、会いにいかないとねぇ」
「ひひひ、絶対腰抜かすぜ!」
「べぁ!」
「あ、一応親父にも姉貴が復活した事を言わないとな」
茨木童子、星熊童子、熊童子もかつてのわだかまりが消えたように、姉妹仲良く会話を弾ませる。
「あれ? アマイモンたちは?」
「吉田たちもおらんぞ?」
夏樹は、アマイモン一派がいないことに。
小梅は影は薄かったが宴会にも帰還にも一緒にいた天使吉田、山田、金田がいないことに気づく。
「――アマイモンたちは一応隔離させていただいています。絶望の神に味方した、となっていますので。吉田くんたちは報告のために天界に直接転移させてもらいました」
喫茶店の窓から後光が差していた。
かろうじて人型だとわかるが、眩しすぎてよく見えない。
「こんにちは。みんなのゴッドです。みなさん、お疲れ様でした。疲れたでしょうが、喫茶店の中にお入りください。よく無事に帰って来てくれましたね、おかえりなさい」
ゴッドに手招きをされた夏樹たちは、
「よーし! ゴッド理事長のお話を聞くぞ! 修学旅行はまだ終わっていないからな、気を抜くなよ!」
「はい、千手先生!」
異世界のノリを維持したまま喫茶店の中に入った。
「……え? なぜ理事長? 先生ってどういうこと? 修学旅行? ゴッド、意味わかんない!」