作品タイトル不明
82「記憶にございませんじゃね?」①
「よし! 倒す奴は倒した! 回収する奴も回収した! ってことで、帰りますか!」
「おー! と、言いたいところじゃが、常識と良識のある俺様は魔族のことはいいんかーい、と突っ込んでおくんじゃ!」
「――っ、さすが小梅ちゃん。俺はすっかり忘れていたよ」
「ある意味、夏樹の方がさすがじゃな!」
「簡単になら私が把握している」
白い衣を纏ったアテーナーが夏樹の前に出た。
「……あんたは」
「こうやって顔を合わせるのは久しいな。先日は、数々の無礼を働いたことを謝罪する。私は、絶望の神ぜっくんに良いように利用されかかっていたのだが、目を覚ました。アマイモンたちと行動を共にし、そこの娘……杏とも寝食を共にした」
アテーナーの謝罪に、夏樹は不思議そうな顔をした。
「あ、これはなんで俺謝られているんだろって顔しているっすね!」
「……ぎ、銀子さん、まさかエスパー!?」
「いやぁ、誰でもわかるっすよ」
「なん、だと」
夏樹が仲間に視線を向けると、アテーナーを含めて全員が頷いていた。
「……忘れられていることは驚きだが、忘れてくれているのなら都合がいい。私は絶望の神の選んだ勇者綾川杏に力を与えていたが、その力もこの世界の魔神が持っていた神剣によって弾かれてしまった。とはいえ、私も意地がある。親しくした杏を取り戻すために協力させてもらった」
「……それはどうも?」
どうやら杏はアテーナーたちに世話になっていたようだ。
「少々問題のある子だったが、ガープと私が口を酸っぱくして注意をしておいた。杏も、自分が悪くないとはもう思っていないはずだ。由良夏樹よ、もしあの子が謝罪をするというのなら聞いてあげてほしい」
「あー、うん。まあ、いいけど」
「ガープとアマイモンも戦う前に気にかけていたので、そうしてくれると助かる」
アテーナーは咳払いをすると、話題を魔族と人間の話に変えた。
「魔族たちに関してだが、大勝利と言ってもいいだろう。問題は、王族がひとりも残っていないということだろう」
「え? みんな死んじゃったの?」
「現国王と子供たちはみんな死んだぞ。覚えていないのか? 最後のひとり、国に残っていた第一王子トレイシー・ブレスコットを殺したのは他ならぬ由良夏樹ではないか?」
「ほえ?」
夏樹は考える。
考えて。
考えた。
「知らね!」
「……まさか無意識が。まあ、アマイモンと激闘の途中で水を差された形だったので無理もないか」
「……まったく記憶にございません!」
「ということで、誰が敗北宣言をするかどうかで魔王は頭を悩ませているぞ。そこで、由良夏樹の出番だ」
「俺の?」
アテーナーの言葉の意味がわからず、しばし悩んだ夏樹は閃いた。
「――っ、つまり鏖殺してしまえと!」
「違う! 一度はブレイバーズ王国にいたのだから王族の血を引くものを他に知らぬかということだ!」
「知らないもん! なっちゃん、あんな国の奴なんて知らないもん! まもんまもん!」
「こ、この子があのアマイモンに勝利したとは、見ていたというのに未が信じられん」
夏樹の言動にアテーナーは困惑しているようだった。