作品タイトル不明
81「親友は最高の勇者じゃね?」
にこやかに挨拶をする夏樹だったが、なぜか周囲は沈黙に包まれた。
「あ、あれ? どうしたの?」
何か挨拶がまずかっただろうか、と不安になる。
「あー、なんだ、由良。お前の目の前にいるのは、俺たちがよく知っている佐渡祐介だ」
「やだなぁ。俺たちの祐介くんがこんな瞳に光を宿しているわけがないじゃん。あれ? そういえば、祐介くんは? ――っ、まさか負傷しているんじゃ!」
「落ち着かんかい!」
「へぶし!」
「どわっ!?」
小梅が夏樹の頭を千手の頭とぶつける。
痛みに呻く夏樹に向かい、小梅は現実を突きつけた。
「残念じゃが、こやつは本当に佐渡祐介じゃ」
「――え、うそ」
「あのぉ、夏樹くんのその反応に傷つくというか、悲しいというか、僕ってどんな認識だったんだろうと不安になるんですけど」
夏樹はカタカタを身体を震わせた。
目の前の青年が、佐渡祐介だというのだ。
瞳に希望を輝かせている青年は、夏樹の知る祐介とはまるで違う。
「うわーん、祐介くんが戦いのせいでおかしくなっちゃったー! いつもダークサイドに片足突っ込んでいた夢も希望もない人外っ子大好きな祐介くんを返してー!」
「僕は人外っ子大好きまでやめてないよ!? そりゃ、確かにダークサイドから足を洗ったけど」
「佐渡ぃ、なんだその犯罪から足を洗ったみたいな言い方はぁ! 面倒くさくなるから余計なこと言うな!」
「千手さんまでひどい!」
手で顔を覆ってしくしくと泣き始める自称祐介のフォローをするように、千手が説明を始めた。
「こいつがいつもと違うのは、はしゃいでいるからだ」
「どういうこと?」
「口にするのは野暮なんだが、ソーニャの姉御と良い仲になったっわけだ」
「……良い仲? え? どういうこと?」
わけがわからず困惑する夏樹に、小梅、銀子、茨木童子が手で女の子がしてはいけないジェスチャーをした。
ようやく理解した夏樹は、ちょっと照れているソーニャとしくしく泣いている裕介を見て、叫んだ。
「ほんげぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」
■
「――一登、頑張ったね。でも、俺は信じていたよ」
「……夏樹くん。嬉しいけど、少し前の叫びを無かったことにはできないからね」
「ほえ?」
「あ、駄目だ。夏樹くんの許容範囲がキャパオーバー起こしちゃってる」
一登は杏を抱き抱えたまま苦笑いする。
夏樹は、杏に視線を向ける。
すうすう、と寝息を立てている。
大きな傷はない。精神的に、魔力的に消耗をしているが、問題ないだろう。ただ、数日は寝ているかもしれない。
「この子は無事だよ」
「よかったよ」
「誠司さんも安心するだろうね」
母も安心するだろう。
夏樹としては、どちらでもよかったが、彼女の安否を気にする人がいるのだ。
連れて帰ることができるのなら、それでいい。
あとは彼女次第だ。
「神剣は?」
「斬り飛ばしたら塵になって消えたよ」
「ふーん。ま、いいか」
夏樹はさほど神剣に興味はなかった。
それよりも、一登が目的を全て達成したことを素直に喜ぼうと思う。
――ぱんっ。
夏樹は一登の背中を叩いた。
「――痛いっ!」
「――一登、お前が一番勇者だな!」
「…………夏樹くん……うん!」
殺すのではなく、救うことを選び成し遂げた一登を夏樹は心から尊敬した。