作品タイトル不明
76「名無しさんの出番じゃね?」
ティッシュを鼻に詰めた、体操服とブルマに身を包んだ名無しだった。
彼女は聖剣さん――蒼穹の星槍の半身でもある。
「……名無しさん」
「私、わかんないんだけど。勝ったのになにが不満があるの?」
「勝ったわけじゃない!」
「そこがわかんないんだけど。……別にいいけど。じゃあ、生き返らせる?」
「できるの!?」
夏樹は希望に満ちた目で名無しを見た。
「待て、アマイモン様は満足してお亡くなりになったんだ! 生き返らせるだと! ――え? 生き返らせることができるの!?」
ガープが目を丸くする。
間違いなくアマイモンは絶命している。
普通は、生き返らせることなどできるはずがないのだ。
「今ならまだ平気よ」
「そんな……今からでも入れる保険があるんですかみたいなノリで」
「別にそんなノリで言った覚えはないけど」
困惑のせいか、おかしなことを言い出すガープに、名無しは冷たく返事をした。
「どうするの?」
「――代償は?」
「あんたの力をもらうわ」
「俺の?」
「正確に言うと、私の半身を使うために無理やり吸収したこの世界の魔力を使うわ。それ以上に魔力を必要とするけど、そこはアマイモン自身と、まあこの世界の魔力を少し使えば問題ないわ」
「なら」
「だけど一度きりよ。私は何度でも死者を蘇らせることができる便利なお姉さんキャラじゃないの。今回は、あくまでもアマイモンが死んで間もないから戻せるだけよ。肉体は死んだかもしれないけど、魂まではまだ死んでないの。だから、早く」
「やってくれ」
夏樹は頭を下げた。
ガープも反対せず、何も言わずに頭を下げた。
彼も内心では、アマイモンに生きていて欲しかったのだろう。
「言っておくけど、蒼穹の星槍はちゃんと機能していないからね。なにあの下手くそな使い方。なんで私の半身はちゃんとフォローしないの? あいつは破壊を司り、私は癒しを司る。その両者の力があってこその蒼穹の星槍だけど、あの女は破壊すらまともにあんたに使わせてないじゃない」
「それを俺に言われても」
「ふん。馬鹿みたいな魔力で頑丈な槍を振り回しただけじゃ、鍛え続けた魔族程度に押し負けるのよ」
鼻を鳴らした名無しは、右手を掲げるとその手に槍を握っていた。
彼女の手にある槍も、間違いなく蒼穹の星槍だった。
「――ふん。あんたを一応は使い手として認めてあげるわ。せいぜい、あんたは私のご機嫌を伺うといいわ」
そう夏樹に言った名無しは、アマイモンの胸に槍を突き立てた。
――刹那、夏樹から魔力がごっそり抜けていく。
大人の肉体を維持できず、また蒼穹の星槍も大きく力を失っていくのがわかる。
だが、一度解放された蒼穹の星槍は姿を剣に戻すことはなかった。
夏樹の身体が、本来の十四歳の姿に戻る。
「ふん。ガキに戻ったわね。残念。……でも、育てるのもアリね」
「え?」
「なんでもないわ。――じゃあ、いくわよ」
名無しの魔力が跳ね上がった。
「――取り戻せ。満天の星槍」
青い光がアマイモンを包み、
「かはっ」
彼はあまりにもあっさりと息を吹き返したのだった。