作品タイトル不明
70「全力を出すんじゃね?」③
夏樹は星槍を肩に置きアマイモンに向かってのんびり歩いていく。
敵意も殺意もない。
今にも「遊びに行こうぜ」と誘いそうな雰囲気さえあった。
「――っ」
そんな夏樹の間合いにもう少しで入るという瞬間、アマイモンが距離を取った。
「なんで? 悲しいなぁ、逃げるなよ。一緒に、楽しむんだろう?」
大きく足を踏み入れ、アマイモンを無理やり間合いの中に入れると、夏樹は星槍をまるで長剣でも扱うように思い切り振り下ろした。
――アマイモンの右腕と血が舞った。
「くっ」
アマイモンの腕が地面に落ちる。
すぐに再生しアマイモンが攻撃を仕掛けてくる。
だが、夏樹は星槍を持っていない手で軽々と防御していく。
「――軽いぜ、アマイモン」
夏樹の鋭い蹴りがアマイモンの腹部に刺さる。
「か、は」
身体をくの字に折ったアマイモンが宙に浮く。
夏樹はその場で一回転し、星槍をフルスイングした。
衝撃音が響き、アマイモンの身体が吹き飛んだ。
地面を跳ね、地形を変えながら転がっていく。
「――こんなもんかよ、アマイモン? なっちゃんがっかりだぜ?」
「言ってくれる」
アマイモンは頭をはじめ、至る所から血を流しているが、まだ元気そうだ。
「強化を極めていなければ今の一撃で死んでいただろう」
「だろうねぇ。殺すつもりでぶっ飛ばしたから」
アマイモンはゆっくり歩いて戻ってくる。
その間に傷が再生されていく。
「――由良夏樹よ。私は少し君を侮っていたのかもしれない。人間でいながら神をも殺せる君を、それでも下に見ていたのかもしれない」
「気にしなくて良いよ。俺もあんたのこと下に見ているから」
「ふふふ、言ってくれる。――誠心誠意謝罪しよう! 由良夏樹、『お前』は私の全力に相応しい『敵』だ!」
アマイモンの雰囲気が明確に変わった。
魔力が高まり、彼の足元が凍っていく。
夏樹は口笛を吹いた。
アマイモンの魔力量は、夏樹と同等になったのだ。
「俺がここまでの力を出すのにどれだけ苦労したか」
この地の魔力を糧にして、星槍を目覚めさせ、肉体を強制的に全盛期に引っ張った。
それだけ段階を踏んでここまでの力を取り戻したというのに、アマイモンはただ抑えていた魔力を解き放っただけ。
「なにその魔力? 不貞腐りたくなるんですけどー」
「長い時間をかけて高めた魔力だ。私は特別力を持つ魔族ではない。ゆえに、魔力を高め、強化を極め、経験を積んだ」
「あんたみたいな奴が一番おっかないんだよ!」
「私にはお前の方がよほど怖い。お前のような奴はいつでも簡単に限界を超えてくる」
「じゃあ、お互いにおっかないってことでひとつ」
「そうだな」
「どっちが本当の意味でおっかないか決めようぜ」
「喜んで」
夏樹とアマイモンが高笑いをする。
そして、笑いながら星槍と拳が激突した。