作品タイトル不明
69「全力を出すんじゃね?」②
「――なん、ですって」
聖剣の半身である聖剣こと「名無し」はこれでもかと目を見開いて夏樹を見ていた。
「すっげぇ好みの男子きたぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「……長いこと一緒におったが、こんな大絶叫を聞いたのは初めてじゃのう。ほれ、もらったティッシュで鼻血を拭かぬか」
老人は苦笑しながら髭を撫でた。
■
地面に突き立てた「彼女」が脈打った。
魔力が足りない。
彼女が真の姿を取り戻すには、まだ魔力が足りない。
夏樹はこの世界の魔力を吸収し続けた。
「――よせ、由良夏樹」
アマイモンの声が震える。
夏樹は無視して魔力を取り込み続ける。
遠くで、魔族が倒れた。
ひとり、ふたり――次々に倒れていく。
今まで近くにあった魔力が急に無くなった反動で軽い酔いと眩暈を覚えて倒れていく。
人間たちも例外ではない。
魔族四天王も、魔王ギーゼラでさえ、急激な魔力の変化に膝を着いた。
夏樹は止まらない。
まだ足りないと、魔力を取り込んでいく。
すでに人としての規格を超えた魔力を取り込んだ。
足りないのは「彼女」のほうだ。
「やめろ、やめるんだ、由良夏樹! この地で魔法が使えなくなるぞ!」
アマイモンの指摘は正しかった。
世界から魔力が枯渇することはないが、この地に魔力が戻ってくるまで数年必要だろう。
魔力的に死んだ土地になることは間違いない。
――だが、夏樹にとって取るに足らない問題だ。
夏樹は、笑う。
楽しそうに、嬉しそうに。
やってやったとばかりに笑う。
「そんなことどうでもいいんですけどぉ! この世界がどうなろうとー、俺はどうでもいいんでーす!」
「なんという……流石に止めさせてもらう!」
「止められるもんなら止めてみろやぁ!」
魔力を高めて夏樹に向かってきたアマイモンだったが、残念ながら夏樹の方が早かった。
「彼女」を中心に魔力が渦巻く。
魔力の奔流にアマイモンの身体が吹き飛ばされる。
「――なんてことだ」
――渦が収まると、無骨な槍がそこにあった。
両刃の剣に長い柄を取り付けただけの、あまりにも単調な槍だった。
「…………聖槍」
アマイモンは槍の正体を見抜いた。
凄まじい力が込められた槍は、勇者が使うにしても強大すぎる力を有していた。
「ちっちっち、アマイモン、違うぜ。星の槍と書いて 星槍(せいそう) だから! そこんとこ夜露死苦ぅ!」
二十歳の姿になろうと、究極の槍を手にしようと、夏樹は夏樹だった。
「というわけで、お待たせ。そして、ご覧あれ。――これが、由良夏樹と星を砕いた蒼穹の星槍の今出せる全力だ」
槍の柄をくるりと回すと、軽く肩に置いてとんとんと叩く。
「――美しい。由良夏樹よ、君は今まで出会ってきた誰よりも、強く美しい。私はその姿に、胸が燃えるほど魅せられてしまった」
「ありがとう。――冥土の土産に俺の姿を焼き付けていくといいさ」