作品タイトル不明
68「全力を出すんじゃね?」①
夏樹は、アマイモンから距離をとった。
「あんた硬すぎね?」
「君を含め、人間も魔族も、神々も、誰も彼も力の使い方が雑だ」
アマイモンは夏樹を前に魔力を少し高めた。
夏樹よりも少ない魔力でありながら、アマイモンに大きな力が宿ったのがわかった。
「魔力を漠然と身体に与えるのでは効率が悪い。意識するといい。骨に、肉に、血管に、皮膚に魔力を流すのだ。魔力で身体を包むのではない。魔力を何重にも細かくして流す。さすれば、少ない魔力で単純な力は増す」
「なるほど」
興味深く試してみたいと思ったが、今はその時ではない。
夏樹は聖剣を肩に置く。
「さて、あんたの身体は硬い。まあ、もう少し力を出せば斬ることはできるし、俺もまだ全然全力じゃないからいいんだけど――俺は、あんたと全力で戦いたい」
「嬉しいことを言ってくれる。不覚にも胸が高鳴ってしまった」
「よせよ、俺まで照れちまう。――だけど、ごめんね。俺ってほら、全盛期から思いっきり弱体化しているから全力は出せても全盛期の全力が出せないんだ。それでもいいかな?」
「構わない。私は、今出せる由良夏樹の全力が見たい」
「よかった。アマイモンならそう言ってくれると思ってたよ」
夏樹は魔力を全て解放した。
「――これが俺の全力だ」
夏樹を中心に爆発したように衝撃波が生まれた。
例えるなら、火山の噴火だ。
予兆など何もない、噴火だった。
「…………なんという魔力量だ……君は本当に人間か?」
「人間も人間、純度百パーセントさ!」
アマイモンが拳を握る。
だが、夏樹はまだ早いと手を挙げて制した。
「逸るなよ、アマイモン。これだけじゃ、全盛期に届かない俺が全力を出しているだけだ。だけど、アマイモン――あんただからサービスしてやるよ。この世界の魔神を殺した時にも見せなかった、俺と聖剣さんの本気を!」
「――っ、由良夏樹! 君は私をどれだけ喜ばせるつもりだ!」
聖剣の切先を地面に突き立てた。
「――すうっ」
大きく息を吸う。
聖剣の本当の力を目覚めさせるには、夏樹の肉体は幼く弱い。
魔力も足りない。
だが、その魔力は外部から取り入れれば良い。
幸いなことに、この世界の大気は魔力に満ちている。
「――まさか」
夏樹の力が増していく。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
限界の壁が破られていく。
全盛期に近づくも、その力を聖剣に注いだ。
すると、夏樹に変化が起きた。
十四歳の肉体が、魔力の渦に巻き込まれると、二十歳の姿になった。
「――最適化か!」
足の長い、細身の青年がそこにいた。
幼い容姿をしていた十四歳の夏樹とは違い、少し荒んだ雰囲気を持つ鋭い目をしていた。
――この異世界で魔王と戦った姿の夏樹が、そこにいた。
「――正解。俺が一番力を使えた肉体に成長したぜ。そして」
夏樹は聖剣の柄に手を置いた。
「――目覚めろ、蒼穹の 星槍(そうきゅうのせいそう) 」