作品タイトル不明
61「殺っちゃうんじゃね?」①
夏樹は聖剣を肩に置き、歩いていた。
向かう先は、殺し損ねた松島明日香の本体がいる場所だ。
「まったくぜっくんもだらしねーなー。なーんで中学生に身体奪われちゃっているわけ?」
「絶望したいからでしょ」
「なるほど、深い」
「深くないから、このアホ!」
肩車する聖剣さんに頭を引っ叩かれる。
絶望の神は絶望絶望うるさかったが、今は絶望しているのか、それとも喜んでいるのか。
少なくとも、この戦いはぐちゃぐちゃになった。
ちょっといない間に、新たな神々の数は大きく数を減らし、ブレイバーズ王国軍も戦う気を失っている。
「ぜっくんごとあの女を殺して、ミッションコンプリートだね!」
「そうね。この世界は空気が悪いからさっさと帰りましょ」
「うい」
絶望の神を相手にするのなら苦戦していたかもしれないが、松島明日香程度など怖くない。
「おう、夏樹! ようやく帰ってきおったか!」
「ようやくっていうか、二度も異世界に飛ばされて一時間も経たずに帰ってきているっすから、全然ようやくじゃないっすよ。もう、帰ってきたっすか、であってると思うっす」
「小梅ちゃん! 銀子さん!」
「おかりなんじゃ!」
「おかえりなさいっす!」
「ただいま!」
手を振って大切な家族に挨拶をする。
聖剣さんもふたりに軽く手を振った。
「どうじゃった、異世界は?」
「マンタさんとアザラシさんと戯れたよ」
「なにそれ羨ましいっす! ……そういえば、こっちに戻ってくるときにマンタ乗ってませんでしたか?」
「マンタさんのまんたがまんたまんただったんだよ」
「意味わからん! おどれ、まもんまもんみたいになっとるじゃろう!」
「あはは、まあ――言うほど悪くはなかったよ。一部、除き」
「その一部がどうなったんっすかねぇ」
「え? そりゃ殺したよ?」
「……そんな澄んだ瞳で言われても、銀子さん困っちゃうっす!」
他愛ない会話だが、異世界に飛ばされ彼女たちに会えない時間が短くともあった夏樹にとって、こうして再び顔を見て話ができることが嬉しくてたまらない。
「んで、夏樹の自称幼馴染み三号が突然変異しとるんじゃが……殺るんか?」
「――殺るよ。あれは、もう救えない。取り込みすぎて、駄目だ」
「そう、じゃな」
夏樹の目から見て、よく明日香は自我を保っていると不思議だ。
明日香に何があったのか詳細はわからない。わかりたくもない。
だが、様々な力を取り込んだことだけはわかる。
そして、取り込みすぎたことも。
「よくもまあ、あれだけの力を取り込んだよね。しかも、力として使っていたんだから。才能だけなら、俺以上じゃね? 容量的にはもう限界みたいだけど」
「己がちゃんとある内に楽にしてあげるのも救いじゃろうな」
「なんとかならないっすかねぇ」
見切りをつけた夏樹と、どうにもできないと割り切る小梅に対し、銀子は何かできないものかと思っているようだ。
「問題がある子であることはわかっているっすけど、新たな神々の誘惑に人間が抗うのは難しいっす。やりすぎているっすけど……ひとりの大人として、思うところはあるんすよね」
「……銀子さん」
甘いとは思わない。
夏樹も、相手が明日香でなければなんとかしてやりたいと思っただろう。
――だが、無理だ。
例えば、シチューを作るとしよう。
市販のルーを沸かした水に溶かし、野菜を煮込む。
できあがったシチューを元に戻せと言われてもできない。
具を分けることはできるだろうが、水に混ざったものを取り除いて元の水に戻すことはできない。
「せめてぜっくんの身体を奪う前だったら、ぎりぎりなんとかなったのかもしれないけど……」
「そうっすか。余計なことを言ってしまったっすね。申し訳ないっす」
「ううん。銀子さんの実は優しいところは好きだよ」
「ありが……実はってなんすか!? 私はいつでも優しいお姉さんキャラじゃないっすか!」
「酒飲みの中身おっさんなお姉さんじゃろうて」
「小梅さんも似たようなもんでしょう!」
「なんじゃんと!?」
「なんっすか!?」
額をぶつけて睨み合う小梅と銀子を見て、夏樹の肩の力が抜けた。
「――早く地球に帰ろう」