作品タイトル不明
60「一登なら心配ないんじゃね?」④
――もう殺そう。
由良夏樹は結論付けた。
基本的に、自分は寛容で寛大な人間だと思っている。
それを甘いともとってもらっても構わない。
しかし、限度がある。
自分に害を与えるのなら、我慢しよう。
もともと興味のなかった人間が羽虫のようにまとわりつこうと、鬱陶しいだけだ。まあ、いい。
だが、大切な家族や友人に手を出すのであれば、話が変わってくる。
「――もう笑えねえよ、お前」
由良夏樹は、松島明日香を殺すことに決めた。
■
「やめてくれ、夏樹くん!」
一登の叫びが聞こえたが、気にせず夏樹は聖剣を振り下ろす。
彼の心配しているのは杏のことだ。
夏樹は、杏を傷つけるつもりはないのだ。
「――死ね」
聖剣が明日香の思念体を斬り裂く。
「ちっ」
手応えはなかった。
ただ、斬ることはできたようだ。
明日香の思念体が、左右に分かれる。
「――どう、して」
「うるせえ、話しかけるな」
「どうしてどうしてどうしてどうして」
斬られたせいか、もとからなのか、明日香の様子がおかしくなる。
夏樹は気にせず剣を横に振った。
明日香の思念体が、横一線に斬り裂かれる。
やはり手応えはない。
明日香自身も痛みを感じていないのか、反応はなかった。
しかし、彼女の目は夏樹を捉え離さない。
「どうして! どうして、みんなこんな女ばかり!」
「知るか。俺はお前たちなんてどうでもいい」
明日香は杏に思うことがあるのかもしれない。
嫉妬なのか、また違うなにか別の感情なのか、夏樹にはわからないし、わかりたくもない。
わかる必要もなかった。
「そんなに杏が好きなら、杏に殺されてしまえ! ――絶望しろ!」
「なんでぜっくんみたいなこと言ってるんだよ……うざいなぁ、早く消えろ」
三度、剣を薙ぐと明日香の思念体は完全に消えた。
死んでないことは理解している。
どこにあるか知らないが、身体に精神が戻ったのだ。
「さてと、――一登」
「……うん」
「任せたぞ」
「――うん!」
交わす言葉はそれだけでいい。
夏樹は円たちに視線を向け、頷き、地面を軽く蹴った。
■
一登は、夏樹に「任された」ことで、力が与えられた気がした。
気のせいだろうとわかっているが、追いかけていた夏樹に託されたのが嬉しい。
「――火輪ちゃん」
「はい、ご主人様」
「――全力で、杏を救う。力を貸してくれ」
「わたくしの力はいかなる時もご主人様のものですわ」
「ありがとう」
一登が魔力を火輪の聖剣に込める。
――真紅の炎が翼となって吹き荒れた。
一登はまっすぐ杏を見る。
彼女は意識はなく、神剣を持つ腕だけが上がっている状態だ。
明日香によって神剣が目覚めてしまったのだ。
それでも、すべきことはかわっていない。
「――杏。今、助けるよ」
炎の翼を広げ、一登は火輪の剣を力いっぱい振り下ろす。
杏の身体を使い、神剣が迎え撃つ。
剣と剣が激突した。
――ぱきんっ。
神剣の刀身に亀裂が走った。