作品タイトル不明
59「一登なら心配ないんじゃね?」③
「あはははははははははは! あははははっ! なにこれ! おもしろい! なんで? なんでなんでなんで? なんでそんなに頑張って杏ちゃんのこと助けようとしているの?」
「――松島、明日香」
「明日香先輩って言いなよ、後輩くん」
半透明な姿の明日香は、棒立ちとなった杏の首に手を回し、顎を頭の上に乗せた。
「どうして?」
「どうしてって、どういこと? あ、これ? このスケスケ状態のこと? これはね、思念体だよー。私ね、茨木童子さんに負けて身体を爆発させて相打ちにしようとしたんだけど、なんていうか、恋のキューピッドになっちゃった感じ?」
「そんな話はどうでもいい!」
「え? いいの? 恋バナしようよ!」
「あんたとそんな話をしたってしょうがない! 杏に何をした!」
「――はぁ」
明日香は、わざとらしく大きくため息をついた。
「一登くんっていっつもいっつも杏杏杏って……他に人の名前知らないの?」
うんざりした顔をした杏は続ける。
「杏ちゃんってさ、迷惑ばっかりかけてるじゃん?」
「別にあんたに関係ないだろ」
「関係はないけどー、見ていてむかつく?」
「――あんたに言われたくないよ!」
「一登くんみたいな男がいるから、杏ちゃんは自分をお姫様だと勘違いしちゃうんだよねぇ。こういう女うざくない?」
実際に触れることはできないようだが、明日香は杏の頭を叩く素振りをする。
「かわいそうだなーって思って、誘ってあげたのに、一登って杏ちゃんを優先して断っちゃったし?」
「言いたくないけど、こっちだって選ぶ権利くらいあるよ」
「あー! そういうこと言っちゃうんだ! 幼馴染みのひとりだから私なりに可愛がってあげようと思ったのに!」
明日香は頬を膨らませる。
「ぷんぷん! ――私を怒らせた罰として、杏ちゃんの手に持つ神剣を目覚めさせちゃいまーす!」
「え? ――やめ」
「やめなーい!」
明日香の思念体は、神剣を握る杏の手に触れた。
――どくん。
神剣が脈打った。
「あははははは! 神剣が目覚めたら杏ちゃんがどうなっちゃうのかわからないけど! こんな子死んじゃってもいいよね!」
「――やめてくれ!」
「だーめー!」
「やめてくれ、夏樹くん!」
「――え?」
思念体の明日香が反射で背後を振り返った。
「――なんで」
一登が必死に訴えていたのは自分ではなかったことを知る。
無表情の由良夏樹が聖剣を掲げて背後に立っていた。