作品タイトル不明
54「お別れじゃね?」
「あー、すっきり!」
夏樹が煌めく汗を満足したとばかりに拭った。
口を開き、なにかを言おうとしていた門の神の首が燃えて灰になる。
残った神の身体も再生することなく、燃えて灰となった。
「二度と異世界転生なんて不幸が起きませんように!」
「……残念だけど、異世界転生を司ってる神ってこいつだけじゃないから」
「嘘ぉ?」
「本当ぉ」
白馬からまんたに乗り換えたまんたさんの言葉に、夏樹は悲しくて涙が出そうになった。
こんな神がまだいるのか、と。
自分のように不幸になる人間がまだいるのか、と。
「ま、こいつだけが門の神を名乗っている一番力がある神だったから、ぶっ殺してくれてありがとーまんたまんた」
「いえいえ、まんたまんた」
まんたさんがお辞儀し、夏樹も頭を下げる。
「正直なことを言うと、こいつを殺せるとは思わなかったよ。新たな神々って奴らの中じゃ上から数えた方が早いんだけどね。もちろん、覚醒することを前提に、だけど。覚醒前でも十分すぎるほど強いんだよ?」
「――勇者ですから。きりっ」
「――ときめきーん!」
夏樹がきりりっ、と顔を引き締めると、まんたさんが胸を押さえた。
「こ、このままだとときめいちゃうから、そろそろ帰るね」
「え? もう?」
「あまり管理外の世界にいることはできないし、私の世界を放置もできないからね。手を出さなくとも、見守ることはしないと」
「……まんたさん」
夏樹はまんたさんに手を差し出した。
「ありがとう。お世話になりまんた」
「いえいえ、こちらこそお世話になりまんた」
ふたりは固く握手を交わす。
「なっちゃんのおかげでしばらく世界は平和だよ。すくなくとも異世界人が飛んでこなくていいからね」
「でもゼロってわけじゃないんでしょう?」
「そりゃね。他の世界にも門の神みたいのはいるし、事故や偶然、それこそ運命かなにかで転生や転移してくる者もいるからね。それでも、門の神のようにいたずらに転生させるやつがいなくなっただけで仕事が減るんだ」
「そりゃよかった」
ふたりは名残惜しそうに手を離した。
世界が違うので、もう会うことはないだろう。
「なっちゃん」
「まんたさん」
「私たち、ずっ友だよね!」
「もちろんさ!」
夏樹は親指を立てた。
「いえーい、まんたまんた!」
「ひゃっほー! まんたまんた!」
そしてハイタッチする。
「友達は離れていても友達だもんね! また、会いに来るよ。マンタさんにのって」
「うん。俺は地球の日本にいるからいつでも待ってるよ!」
「ちなみに、こっそりアザラシさんだけでも持って帰ろうとしているけど、させねえから! マンタさんを含めて、持っていくの禁止だからね!」
「ああっ、そんな!」
こっそり抱き抱えていたアザラシさんを没収されてしまう。
「このマンタさんもアザラシさんも、そっちの世界にいる生物とはちょっと違うんだよねぇ」
「そりゃ地球のマンタさんは空を飛ばないしね!」
「ついでに言っておくと、パカラッチョーも連れて行けないよ」
「――え?」
「そんな悲しそうな顔をされても困るんですけど。えっとね、この子は魔力がこもった特殊な草を食べて育つから、地球じゃ生きていけないんだ。あの時は、忘れていたんだけど、もっと早く言えばよかったね。ごめんね」
「い、いいんだ。パカラッチョーが幸せなら……生まれてからずっと一緒にいたパカラッチョーが幸せでいてくれれば」
「……出会ったのさっきじゃん。お馬さん困惑させんなよ」
夏樹の妄想に「あれ? そうだっけ?」とパカラッチョーが困惑している。
「パカラッチョーはちゃんと私が面倒見ておくから。安心して」
「うん。パカラッチョー、元気でね」
夏樹がパカラッチョーを撫でると、白馬は夏樹に頬擦りした。
「じゃあ、そろそろいくね」
「うん。まんたさん、マンタさんたち、アザラシさん、パカラッチョー! またね!」
夏樹は涙ぐみ大きく手を振るう。
パカラッチョーが鳴き、マンタさんたちがヒレを器用に振る。
アザラシを抱き抱えたまんたさんがマンタの背に乗り手を振った。
「まんたまんた!」
「まんたまんた!」
そして、柔らかな風が吹き、まんたさんたちは消えた。
まるで最初からそこにいなかったかのように、音もなく、瞬く間に消えてしまった。
「また会えるって信じているよ」
夏樹は別れに切なさを覚えながら、気持ちを切り替える。
「――さあ、鏖殺再開だ!」