軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45「嫌がらせじゃね?」

松島明日香は、頭が潰され、腑が飛び出し、身体が左右に別れていく光景を他人事のように感じていた。

(あーあ)

もう痛みさえ感じない。

身体を潰し、抉られ、両断されていながらまだ生きていることがなんだか笑えた。

(茨木童子さんって、本当に私のこと警戒しているよねぇ。よっぽどしののんを取られたくないんだろうなぁ)

明日香には、茨木童子が東雲を名で呼ばず「しののん」と呼んでいる理由がわかった。

―――怖いのだ。

よほど恨まれている自覚があるのだろう。

嫌われている自覚があるのだろう。

だから名前を呼べない。

「しののん」と愛称で呼ぶフリが精一杯。

名を呼び、拒絶されるのが怖い。

その証拠に、茨木童子はいつだって東雲を気にしている。

多々言っている時も、明日香に全力で警戒している時も、東雲の視線だけは意識している。

(かわいそうな女……よっぽど自分に自信がないんだろうね。もしくは、よっぽど酷いことをしたか、かな?)

茨木童子の事情はぜっくんが説明してくれていた気がするが、明日香は覚えていない。

茨木童子に何があったのかなど興味がなかった。

(うーん、茨木童子さんって私より全然早いし、怖いし、やんなっちゃうよねぇ。弱いくせに強がっている姿も痛々しいし、もう戦うのが辛いよー! って、ことで、もう終わりにしようかな。飽きちゃったし)

顔は潰れている。

代わりとばかりに、これから起きることを想像し、明日香は心の中で笑った。

焼け焦げた身体を地面に散らし、未だ炎に焼かれ続けている松島明日香を見下ろし、茨木童子は大きく息を吐いた。

(予定していたよりも力を消耗したわね。しばらく……それこそ何十年と弱い鬼のままでしょうね)

人を、霊能力者を食えば力を取り戻すことは容易いだろう。

しかし、茨木童子はもう二度と人間を食わないと決めている。

意図せず、生きながらえたことで今までの行いを反省した――わけではない。

愛する安倍東雲が愛する人たちを同じように愛そうと思ったのだ。

茨木童子も家族がいて、大事に思っている。

なぜ東雲も自分と同じであると思わなかったのか。

どうして、世界に自分と東雲だけいればいいと考えてしまったのか。

茨木童子は、一度死んだ。

それは間違いない

絶望の神の手によって、生き返ったのだ。

これは最後の好機だと考えた。

東雲に愛されずとも、恨まれていようとも、再びギャラクシー河童勇者に殺されようと構わない。

――もう、二度と、茨木童子は間違えない。

「……ふう。絶望の神がこの女に何をしたのか知らないけど、戦いにくい相手だったわ」

絶命したことを確認し、背を向ける。

命は無限ではなく、有限だ。

この世界はゲームではない。

どれほど溜め込んでいたのか不明だが、松島明日香は死んだ。

それは、間違いなかった。

「――いばちゃん! まだ終わっとらん!」

東雲の声が響いた。

「――え?」

燃やし残しの亡骸が、申し訳ない程度に集まって立っていた。

茨木童子の理解の範疇を超えていた。

死者は動かない。

動かす方法はあるが、茨木童子はそれをさせない対策をした上で殺した。

――ならば、なぜ動いているのか?

「茨城童子って、甘いよねぇ。私ね、勇者なんだよ? エナジードレインだけが私の力じゃないの。私の勇者としての特性は――命を奪うこと」

「な」

「命を奪って、自分の命にしたり、武器にしたりできるの」

明日香の肉体が修復していく。

「あー、熱かったし、痛かった」

「な、ぜ」

「え? ああ、うん。茨木童子に今まで溜め込んだもの全部燃やされちゃったけど、なくなったら別のところから奪えばいいじゃん? ここ、戦場だよ? 命や肉体なんて売るほどあるじゃん? って、言っても、近くにあった草の命を奪ってギリギリ生き返っただけなんだけどねー」

「なら――」

「でも、このままじゃ茨木童子さんに殺されちゃうので、私は人間をやめることにしましたー! やったー!」

「もう辞めているくせに!」

茨木童子の爪が明日香の身体を抉る。

が、手応えは砂のようだった。

「私ね、思ったの。この身体じゃ限界があるから、もっと強い身体が欲しいって。でも、ほら、それって難しいから、一度この肉体を捨てようって思ってね」

「余計なことを、ならばもう一度――」

「あと、三秒でこの身体は爆発しまーす。目標はしののんと、鬼さんとくまさんでーす! すべての力を込めた爆発に耐えられるかなー? 二、一」

「やめ」

黒く焦げた顔をした明日香は笑った。

「だーめー」

そして、明日香を中心に大爆発が起きる。

爆炎は茨木童子を包み、身体を焼いた。

それだけでは済まず、爆炎が東雲と星熊童子、熊童子に向かっていく。

「しのの」

炎に包まれた茨木童子の声が途切れた。

次の瞬間、東雲たちを爆炎が飲み込んだ。