作品タイトル不明
44「吹っ切れたんじゃね?」②
明日香は、残っているすべての力をこの場で捨ててしまおうと考えた。
せっかく溜め込んだ力ではあるが、いい気分だったのに水を差されてしまったため、すべてをゼロにしてまた貯め直したかったのだ。
「とりあえず、茨木童子さんと決着つけようかな? 三度目の正直ってことで、殺してあげるよ!」
「それはこっちの台詞よ。勝てるものなら、勝ってごらんなさい」
「あははは、茨木童子さんいつも強気だね。でも、間違いなく勝つのは私だから!」
明日香には自信があった。
勝てる確信もあった。
ゆえに、余裕を崩さない。
「あ、そう。じゃあ――しね」
対し、茨木童子は苛立ちを覚え、地面を蹴った。
刹那、明日香の眼前に茨木童子が現れ、貫手で胸を貫く。
「ご、ほっ、おえっ……ざーんねん、これだけじゃ死にませーん」
「わかっているわ、だから内側から燃やしてあげる。お前の力は半分以上浄化されたでしょう? 残った力と私の力で比べっこしましょう」
茨木童子は鬼とは思えない可憐な笑みを浮かべた。
「え、うそ……ちょ、ま――ぎゃぁあああああああああああああああああああっ!?」
茨木童子から青い炎が放たれた。
あっという間に、炎は明日香の体内を駆け巡り、胸部の穴、口、鼻、目、耳から吹き出る。
「私も弱体化……いえ、元の鬼に戻ってしまったけれど、力はあるわよ。さあ、どちらが先に根を上げるか我慢比べしましょうね」
絶叫を上げて内側から焼かれ続けている明日香に対し、茨木童子は霊力を燃やしているだけ。
一見すると、茨木童子に有利に見えるが、実際は彼女が口にした通り、我慢比べである。
茨木童子の炎は霊力を削って放っている。
この炎が枯渇した時、茨木童子に待っているのは――死だ。
裏京都の鬼たちを支配していた茨木童子は、その時の力はもうない。
神に足を一歩踏み込んでいた力を失い、今は「鬼」だけの力で戦っている。
今の茨木童子も強い。
夏樹が同じ様に戦えば、また苦戦し限界まで戦うだろう。
しかし、今回の戦いは茨木童子にとって相手が悪い。
再生を繰り返すため、根本的な力を奪うしかないのだ。
そして、その力は、単純な暴力を得意とする茨木童子には、命を燃やさなければ奪うことができない。
「あら、醜い悲鳴ね。まるで豚のよう。……ごめんなさい、豚に失礼だったわね。豚は美味しいもの」
命が削られていながらも、茨木童子はそれを表に出さなかった。
「このままいい感じに焼けたら、豚の餌にしてあげる」
殺意を全開にして力を込める。
このまま焼き殺すことができる、と茨木童子が確信した。
その時、明日香の腕がゆっくり動いた。
「今さら、無駄な抵抗を」
「……ひ、ひひ」
焼けこげた腕を持ち上げたが、茨木童子は一切の容赦なく彼女の腕を引きちぎった。
余計なことはさせない。
いくら弱体化しようと、茨木童子が殺せなかった数少ない敵だ。
警戒を緩めず、緊張も解かない。
「このままお逝きなさい。今更、元の人間には戻れないわ。なら、死んだ方が楽よ」
炎を強める。
絶叫が消えた。
もう声を上げる力もないのだろう。
十分に明日香を焼き尽くした。ならば、とどめを刺すだけ。
予想していたよりも消耗は激しいが、なんてことはない。
こんな化け物を東雲と妹たちが戦わなかったのだ、代償としてはないに等しい。
「さようなら、小娘」
――ぐしゃり。
茨木童子の鋭い爪が、明日香の頭部から股にかけて引き裂き、潰した。