作品タイトル不明
43「吹っ切れたんじゃね?」①
「あ、ああ……私の力が、せっかく強くなったのに、バカにした奴を殺したかったのに」
松島明日香は、身体中から力が抜けていくのを感じていた。
「……そんなけったいなこと考えとったんね。自分が言えることやないけど、誰かを恨んどっても幸せにはなれへんよ」
東雲の同情する声が、不快だった。
明日香は、復讐したいわけではない。
感情のまま力を振るいたいだけだ。
復讐なんてことは考えたことはない。
馬鹿にしてきた奴を、ぐちゅぐちゃにして、死ぬほど後悔させてやりたいだけだ。
「あ、あはははははははは! せっかく強くなったのに、力の半分以上がなくなっちゃった! 誰だか知らないけど、余計なことしちゃったよね! もう、また貯め直さなきゃいけないじゃない!」
「――次はないわよ、小娘」
「……茨木童子さん……なにそれうざーい! ちゃっかりしののんの隣に立ってドヤ顔されても困るんですけどー」
「……自分も君にまでしののん呼びされて困るんやけど」
明日香は、幼い頃から少年と間違えられる様な快活な少女だった。
女の子と遊ぶよりも、男の子と一緒に暴れるほうが好きだった。
そんな明日香を、同世代の少女たちは「明日香ちゃんは男の子とばかり仲良くしているからきらーい」と笑う。
ひとりそんなことを言い出すと、伝播して次々と同じことを言う子が増えた。
しかし、明日香はあまり気にしなかった。
友達ではない子に「嫌い」と言われても、なにか困るわけではない。
だから、そう言ったら何故か泣かれた。
この時、明日香は初めて不快感を覚えた。
こういう子にはならないと決めた。
今の明日香は、当時の誓いを守っている。
好きになってくれる人には全力で好きを応えよう。
嫌うなら、こっちも嫌いになろう。
なにも困らなかった。
同じ様な子だっていた。
自分は特別ではない、普通の子だ。
――と、思っていた。
きっかけは、三原優斗との出会いだった。
当時遊んでいた由良夏樹や三原一登よりも、キラキラして見えた。
だけど、別に興味を惹かなかった。
優斗はつまらなかったからだ。
一緒に遊んでいても楽しくない。
夏樹と一登としていたことを不思議と嫌がり、違うことをしようとする。
それが楽しければいいのだが、つまらなかった。
何度か夏樹たちのもとに戻ろうと思ったが、優斗だけが自分のことを「可愛い」と言ってくれる。
少年のように、友人として扱われるのではなく、女の子としてちゃんと扱ってくれるのだ。
それが心地よかった。
何度か夏樹や一登に自分のことをどう思うのか尋ねても、「友達」としか返ってこない。しかし、優斗は「女の子として好き」と言ってくれた。
なので、一緒にいた。
ただそれだけのこと。
できれば、夏樹たちが優斗に嫉妬して自分のことを女の子扱いしてくれるんじゃないかと思ったが、ついにそうはならなかった。
それだけ。
たったそれだけ。
松島明日香は、三原優斗の魅了にかかっていない。
なにも感じていない。
ただ女の子扱いしてくれたから、一緒にいただけなのだ。
「茨木童子さんって、私のことを男に媚びてるって言った可愛くない子に似てるんだよね」
「あら、そう。でも、私はこの通り可愛いわよ」
「そういうところが可愛くないと思うんだけどなぁ」
優斗と一緒にいることが当たり前になっていたので、行動を共にしていただけ。
その証拠に、バスケ部たちの「想い」に答えていたし、異性の好みとしては夏樹の方が好きだ。
好意には好意で返すと決めている明日香は、好意を抱いてくれなかった夏樹に悪い態度をとった。
明日香なりに気にして欲しかった。
これだけなら可愛い行動だったのだが、そこへ優斗と杏の嫌味が重なったので、より嫌われてしまった。
明日香は気にしない。
男子がどんなことを好きか知っているからだ。
少しでも夏樹が素直になれば、すぐに蕩けさせてあげると考えていた。
――が、そんな日は来なかった。
「なんか異世界とか勇者も最初は楽しそうだなーって思っていたけど、夏樹と一登は敵だし、こっちが悪者みたいになってるし、力はなくなっちゃったし……イライラするなぁ」
うまくいかないことばかりが続き、ストレスも発散できない。
苛立ちが募り、明日香は――我慢するのをやめた。
「決めーた! 茨木童子さんもしののんも、夏樹も一登もみんな殺して、地球で好き勝手しようっと! 私の悪口言った子とたくさん遊ぼう! うんうん、そうしよう! やっぱり私って勇者って柄じゃないし、この世界なんてどうでもいいし! なんかすっきりした! なんで今まで我慢していたんだろう!」
晴れ晴れとした顔をして、明日香は嗤った。