作品タイトル不明
42「ついに覚醒じゃね!?」③
「……裕介、お前……」
「ソーニャさん、まだ終わっていないよ。今、僕にできることを全てしてしまおうと思う」
祐介が静かに手を合わせると、彼の両手から光の雫が落ちた。
大地に波紋が生まれる。
――次の瞬間、戦いを行い血が滲み、亡骸が並ぶ大地に緑が広がっていく。
まるで波のように緑がどこまでも広がっていく。
誰もが、この奇跡のような光景に目を奪われ、戦う手を止めていた。
――例外は、サイラス・ブレスコットだった。
「……なんだ、なんだこれは! 私の、私の身体が崩れていく! やめ、やめろ! やめてくれ!」
サイラスの身体は、大地の勇者の力によって浄化されていた。
抵抗はしているようだが、彼の身に宿る、奪われ利用された哀れな命がゆっくりと大地に還っていく。
どれだけ取り込んでいたのか知らないが、サイラスから犠牲者たちが解放されていく。
「……頼む、やめてくれ。金なら払う、女も、男も好きにしろ。魔族が好きなら、我が国の、奴隷を、やろう……だから、頼む、私はこのまま死ねない、死にたくない、私はずっと王でいるのだ、だから、頼む」
「――断る」
祐介のはっきりした拒絶に、サイラスの顔に絶望が浮かんだ。
「あなたは敵だ。僕の敵だ。だから、手心は加えない。仲間たちのためにも、何よりも僕のためにも絶対にそんなことはしない」
「あ、ああ」
「だけど、せめて安らかに」
祐介は崩れゆくサイラスに、目を伏せ礼をした。
「ああ、嫌だ。嫌だ……私は、勇者にもなれず、王でもいられず……くそっ、くそぉおおおおおおおおおおお!」
涙を流し、声を張り上げながら、サイラス・ブレスコットは息絶えた。
彼の亡骸は、キャメロンと同じように崩れさり、風に舞った。
「ブレイバーズ王国軍の諸君。――勇者佐渡祐介の名の下に、君たちを拘束する」
サイラスの最後を見送った祐介が、軽く指をタクトの様に振るう。
すると、草木が伸び、ブレイバーズ王国軍のひとりひとりを拘束していった。
「殺しはしないよ。少なくとも僕は、もうごめんだ。――そして」
さらなる魔力を高め、祐介は大地に注いだ。
「――――大地よ、汚れを祓いたまえ!」
淡い光が再び舞う。
次の瞬間、少女の絶叫が響いた。
■
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああっっ!」
安倍東雲たちと、鬼の姉妹の前で、松島明日香が絶叫をあげていた。
大地が緑に覆われたかと思えば、淡い光が舞い明日香を浄化したのだ。
「……なんちゅう出鱈目な」
東雲としては呆れるほかない。
祐介の力によって明日香が浄化されて苦しんでいるのはわかる。
彼の浄化の力は凄まじいものだった。
日本で見かける悪霊など、一瞬にして消し飛んでしまうだろう。
それは、妖怪である茨木童子たちも例外ではない。――はずだった。
「……なんで、俺たちは平気なんだ?」
「べぁ?」
鬼である星熊童子、熊童子にはまるで影響がなかった。
浄化の力が発せられたとき、一瞬、覚悟をしたくらいだったので拍子抜けしてしまっている。
そんな妹たちに、茨木童子はなぜか胸を張った。
「しののんの妻と、その妹たちを無意識に浄化の対象から外したのね。佐渡祐介だったわね、いい子じゃない」
「…………ツッコミを入れたら負けやろうけど、言わずにはいられへんわ。なんで、自分と茨城童子が夫婦になっとんねん!」