作品タイトル不明
間話「動画制作中じゃね?」
素盞嗚尊は語る。
「人間が強かろうと弱かろうと全力で戦える奴なんて数えられる程度しかいねえよ」
「なんでだって? そりゃ、全力で相手を殴ったら痛えだろ?」
「子供同士の喧嘩でも、不良の喧嘩でもなんでもいい。十の力で殴りつければ、反動はある。自分の身体が傷つかないように、身体っていうのは勝手にセーブしちまうんだ」
「なにも自分を守るためだけじゃないさ。全力で暴力を振るえば、相手が死んじまうって本能でわかり、恐れるんだ。誰かを傷つけることが好きな奴だって、殺してしまうリスクを考えると、全力なんて出せねえ」
「――あ? じゃあ、どうすれば全力を出せるかだって?」
「そんなもん、知るかよ。神だって気を遣っているんだぜ。だけど、そうだな。本当の意味で全力で戦える奴がいたら、そいつはどこかおかしいってことさ」
「もしくは、あまりにも割り切りがいいってことだ。自分の身体も、周囲への被害も、相手も、どうだっていいんだ。俺は、そういう相手が怖いね」
■
「はい、まもーん!」
「……はい、カット! みたいな感じでまもんって言うなよ。相変わらず、自己主張強えなぁ」
青森某所。
サマエルの家で、なぜか素盞嗚尊がマモンによって動画撮影していた。
「……なんでウチでやってんの? てか、なんの話? どういうこと? 事前に、来るって聞いてないし、報連相くらいちゃんとしようよ?」
困惑するサマエルを前に、マモンと素盞嗚尊は念入りに台本のチェックを行う。
「プロ意識高い感じがうぜぇ。ていうか、なんで夜に撮影してるんだよ。あと、どこからその高そうな椅子と、悪の幹部が飼ってそうな黒豹持ってきたんだよ! 仕事終わりなんだから突っ込みさせるな!」
「まあまあ、さまたん様。これもまもんまもんです」
「一番大事な説明箇所を端折るんじゃねえよ!」
サマエルは、冷蔵庫からビールを取り出し、勢いよく扉を閉めた。
「まもんまもん、さまたん様、落ち着いてください」
「……ふう。んで?」
ビールを一本飲み干して、丸テーブルの前に座るとマモンに説明を促した。
「――由良夏樹の件でまもんまもん」
「どういうこと?」
「由良夏樹ってまもんまもんに強いじゃないですか?」
「お前、ぼっこぼっこだったもんな」
「お恥ずかしながら……奴のまもんまもんパワーは目を見張るほどでしたねまもんまもん」
「そんなパワーねえから!」
「そこで、由良夏樹と戦った神や魔族にインタビューしようかなと思いまもんまもん」
「……それ、動画にして流すつもりか?」
「まもんまもん」
「あまり言いたくないけど、動画見た人たちが、「え? 誰?」ってなると思うんだけど」
サマエルの疑問に、マモンは「やれやれ」とばかりに肩をすくめる。
「俺は強欲な魔族ではありますが、一般常識を持っている魔族でもありまもんまもん。この動画は、神界魔界用です!」
「……まあ、それならいいけど、由良夏樹くんの名前を勝手に使うなよ? 許可取れよ?」
「――まもん?」
「え? じゃねえから、あの子が有名になったら大変だろう! それじゃなくても毎日がイベントみたいな生活しているのに!」
「さまたん様、男の子にとって思春期は毎日イベントなんでまもんまもん」
「私、女の子だからしらんけど!」
「女の子って、冗談もまもんまもんにしてください!」
「――表出ろ、ぶっ飛ばしてやる!」
――やっぱり青森は平和だった。