作品タイトル不明
36「婚約者が助けに来たんじゃね!?」③
「あー、あかん。こないなことしている状況やないのはわかっとるんやけど、おっかしいなぁ」
東雲は腹を抱えて笑う。
ひとしきり笑うと、笑いすぎて溢れた涙を拭う。
「……茨木童子」
「なあに?」
「正直、自分はどこかで君は生きとるんやないかって思っとった。死んだ瞬間を見たし、墓参りも行ったんよ。でも、それでも、死んだとは思えんかった」
「がっかりした?」
「どうなんやろ。わからんよ。でも――」
「でも?」
「喉に刺さっとった小骨がとれた気分や」
「なぁにそれ」
「なんやろうなぁ」
東雲は懐から符を大量に取り出すと、乱暴に中に放り投げた。
符が宙を舞、東雲たちを覆った。
「茨木童子」
「なぁに?」
「味方でええんよね?」
「もちろんよ。私はしののんの敵になったことなんて一度もないもの」
「さよか」
「それに――あの小娘は個人的に殺したいのよね」
「奇遇やね。自分もあの子は殺しておかんと思うよ」
東雲はさらに符を取り出す。
「これで打ち止めや。殺せんかったら、自分らの負けやね」
「私がいるから大丈夫よ。しののんのことだけは絶対に守ってあげるから。そういえば」
「うん?」
「しののんの学生服って新鮮ね、似合っているわ」
「ありがとう。茨木童子のセーラー服も似合っとるで。なんでそんなん着ているのか気になるけど、まあええよ」
東雲は不思議と、茨木童子へ対する恨みや憎しみを抱いていなかった。
きっと、裏京都で夏樹が彼女を倒したとき、長い復讐が終わったのだろう。
可愛い弟は生きている。
死んだはずの夏樹は生きていた。
簡単に感情を綺麗になかったことにするにはまだ時間は必要だが、今の東雲は心穏やかだ。
「ほら、星熊、熊、あなたたちも戦うのよ」
「姉貴と戦うか……久しぶりっていうか、初めてじゃねえか?」
「べあべあ」
「だよなぁ。今まで盾にされたことはあっても、共闘なんてはじめてじゃねえか?」
「べあ!」
「何言っているの? あなたたちは盾に決まっているじゃない。死んでもしののんを守りなさい」
「ちくしょう! やっぱり姉貴だった! 死んでもかわらねぇ!」
「べあべあ!」
東雲は手を軽く叩いた。
「日本に帰ったら、美味しいお酒とはちみつをあげるから、文句言わんと戦おうや」
「ちっ、義理の兄貴になる東雲の頼みならしゃーねーなー」
「ちょ、やめて!」
「べあべあ!」
「熊童子までそんなこと言わんといて!」
「しののんったら照れちゃって」
「照れとらんからね!」
散々、明日香に手も足も出なかった東雲たちだが、その表情は明るい。
その理由はきっと本人たちにもわからない。
「もーいーかーい!?」
首をつなげ、衣服まで元に戻っている明日香が笑顔を浮かべている。
「律儀に待ってくれてありがとうね」
「いいのいいの! 茨木童子さんの元彼がお兄さんだなんて知らなかったから。――プラン変更だね!」
「なんや? ちょっと怖いなぁ」
明日香は東雲を見て、舌舐めずりをした。
「お兄さん好みだし、茨木童子さんたちを痛めつけた後に、私の虜にしてあげるね!」
ウインクをする明日香に、
「――ひえっ。ほんまに怖かった!」
東雲が心底怯えて茨木童子の背中に隠れた。
「松島明日香だったわね」
「茨木童子さんって私の名前を覚えていてくれてたんだね! うれしいなー!」
「あなたにお礼を言うわ。あなたのおかげで、私は白馬の王子様よ!」
「……えっと、なんか違うんじゃない?」
「きっとあなたを殺せばしののんがダイヤの付いた指輪を私の薬指にはめてくれるのね」
「……めちゃくちゃ後ろで元彼さんが首を横に振って否定しているけど」
「照れ屋さんなの」
「なるほど! 草食系なんだね!」
「そうよ!」
「もっと好みだね!」
「私の明るい未来のために――死んで」
茨木童子が明日香に襲いかかった。
「……自分、どうなってしまうん?」
「どんまい」
「べあべあ」