作品タイトル不明
35「婚約者が助けに来たんじゃね!?」②
潰れた頭は即座に再生し、ケタケタと笑う。
「茨木童子さんじゃーん! うわー、私を殺せなかった鬼さんがどこかに逃げたと思ったら、振られた元彼のピンチに颯爽と登場してヨリ戻そうとかきもーい!」
「…………」
茨木童子はあえて何も反論しなかった。
明日香の頭を頭上に投げる。
「ちょ――」
五メートルほど放り投げられた明日香の頭部は、受け身が取れるはずもなく鼻から地面にぶつかった。
鈍くて嫌な音が響き、東雲は思わず目を逸らした。
茨木童子は明日香を無視して、倒れる星熊童子と熊童子、そして東雲に近づいた。
「……久しぶり、と言うほどじゃないけど、また会えて嬉しいわ」
東雲は言葉を発さなかった。
発せなかったと言うべきだろう。
裏京都で夏樹と戦い死んだ茨木童子が目の前にいることが驚きだ。
夏樹が死ぬ思いで限界を超えて戦い、倒したはずだった。
「……いばちゃん」
「ふふ、まだそう呼んでくれるのね」
東雲は苦い顔をする。長い間、油断させるため恋人として振る舞った癖なのだろうか、無意識に茨木童子のことを愛称で呼んでしまった。
嬉しそうにはにかむ茨木童子は、肉体は幼くなり、力も以前ほどではなくなっていた。
それでも、星熊童子たちよりも群を抜いて強いことが肌でわかる。
「あまり睨まないで。積もる話もあるでしょうけど、その前に」
茨木童子は倒れて動けずにいる星熊童子と熊童子に手を当て、霊力を流し込んだ。
「――づっ、あぁ」
「べぁっ」
強力な力が流れ、二人は跳ね起きる。
「……あ、姉貴」
「べ、べあ」
「あなたたちも久しぶりね。しののんと仲良くしている様でほっとしたわ。でも、情けないわね。あれ、に遅れを取るなんて」
奪われた霊力を取り戻した星熊童子と熊童子は、茨木童子を前にして明らかに怯えた顔をした。
「……やっぱり生きてたんだな。この世界に姉貴の気配があったから、もしや、と思ったけど」
「べぁべぁ」
「さぞ残念でしょうね。嫌な姉が生きていたのだから」
「別にそんなことは言ってねえけど」
「べぁ」
星熊童子も熊童子も、この場にいない虎童子も、茨木童子に苦手意識はある。
ある意味、一番鬼らしい鬼だったのだ。
姉妹仲もお世辞にもいいとは言えない。
「――今までの私の言動を考えれば、嫌われているのは理解しているわ。でもね、私はあなたたちの姉だから。それだけは絶対にかわらないからね。だから――守ってあげる」
茨木童子は姉妹を背に庇い、立った。
「う、うわーん! ぜっくん、ゆるせねぇ! 姉貴の偽物を復活させるなんて! 姉貴がこんな妹想いなわけないだろ! 返せ! 傲慢な姉貴を返せー!」
「べああああああああああああああああああああああ!」
茨木童子は、妹たちの言葉に頬を引き攣らせた。
「……あなたたちが私のことをどう思っているのか、改めてよくわかったわ。あとで話し合いましょう」
「ひぇっ、やっぱり本物だったかもしれねえ!」
「べあ!」
「――ぷっ、あははははははははは!」
そんな姉妹のやりとりを見ていた東雲が、我慢できないとばかりに吹き出した。