作品タイトル不明
2「トラックには夢と希望があるんじゃね?」②
兵士、騎士たちが涙を流しながら、絶望した顔で襲いかかってくる光景は異様だった。
「なんじゃ、こやつら……泣いておるぞ。正直、気持ち悪いんじゃが」
ひとりひとりは弱い。
天使の小梅はもちろん、人間の中では一番一般人に近い実力を持つ一登でさえ、問題なく倒せてしまう程度でしかない。
ただ、数が多い。多すぎる。
「この人たちって、泣いているよね」
「ああ、泣いているな」
祐介と千手が、迫り来る兵士たちを殴り飛ばしながら、この異様さが夢ではないと確認し合う。
祐介の隣では、メイド服姿のソーニャが拳でブレイバーズ王国兵を蹴り飛ばしていた。
「こいつら、洗脳でもされているのか?」
「洗脳っすか。ありえますね。つーか、聞こえないふりしたかったっすけど、この人たちなんか言ってません?」
ソーニャの疑問に銀子が応じる。
戦いの声が響く中、一同が耳を澄ます。
すると、「戦いたくない」「やめてくれ」「痛いのは嫌だ」「帰りたい」「魔族を殺すだけだって言ったのに」「死にたくない」と、ブレイバーズ王国軍の兵士たちが呟いている。
「――どいつもこいつも反吐が出る。兵士のくせに、戦うことすら放棄したいというのか!」
征四郎が怒りを込めて、拳を繰り出す。
剣士として、戦意がなく涙を流す者を斬り殺すことはできないようだ。
彼の背後には、拳銃を手にしながら構えない義政の姿もある。
「――哀れですね。僕の推測ですが、ぜっくんには彼らを操るなにかがあるのでしょう」
義政の言葉を聞き、ぜっくんが歪みに歪んだ笑顔を浮かべた。
「ぜーっぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜ! そうだ! その通りだ! 私の力のひとつ! 私の影響下にある対象者に一番絶望的な行動を取らせることができるのだ! つまり、この臆病者の負け犬たちは、死にたくない、逃げたいと願っているゆえ、逆のことをする! 無謀な戦いを挑むのだ!」
「なんちゅー嫌な能力じゃ!」
小梅が心底不愉快だと言わんばかりに顔をしかめる。
他の者たちも同じだ。
しかし、ぜっくんにとっては、その反応が嬉しいようだ。
「ぜーっぜっぜっぜっぜっぜ! そして! 誰かが絶望すればするほど私の力は強くなっていく! わかるかい!? 今、この瞬間に、私は絶望的に強くなっているのだ、よっ!」
「御託はええんじゃ。そーんなに強い自慢をしたいんじゃったら、この俺様を倒してみればええ!」
「ぜっぜっぜっぜっぜっぜ! なにを言っている、小梅・ルシファー! 私と戦いたければ、まずは私が絶望的に力を与えた者たちを倒してみろ!」
「……なんちゅーお約束なやつじゃ。自分が強いと言いよったくせに、戦わんとか、意味がわからんのう!」
ぜっくんの性格上、自らの手で自分達と戦うつもりでいると考えていた小梅は、どこか違和感を覚えた。
今まで手下がいても、ぜっくん自ら夏樹の前に現れていた。
ときにはぜっくん自身が戦うことがあった。
だが、今になって急に戦わない選択をとることが疑問だ。
強くなったと豪語しながら、動こうとしないぜっくんから「何かを待っている」ような気がしてならない。
「というわけで! 幸運の! いや、門の神よ! もんもん! 絶望的にやっておしまいなさい!」
「俺はお前の配下じゃねえ。そこを間違えるな。だが、好き勝手に暴れることは変わらない。覚悟しておけ、三下ども」
門の神が小梅たちに向かって足を進める。
力を高め、今にも攻撃をしようとしていた。
しかし、小梅たちは動かない。
否、動けない。
――あ。
門の神の後ろに、彼はいた。
想像していなかった展開に唖然としていなければ言っていだろう。
――「後ろ後ろ」と。
門の神の背後には、異世界に飛ばされたはずの由良夏樹がいた。
「私、なっちゃん。今、あなたの後ろにいるの」