作品タイトル不明
エピローグ「流石に想定外の展開じゃね?」
攻撃は防御した。
守りに徹してもいいことはない。
ならば攻めるだけだ。
「――ギーゼラさん、ブレイバーズ王国軍は任せた!」
「わかった」
「俺たちは予定通りに、遊撃して面倒くさい敵を撃破する。その間に、潰してくれ」
「承知した。――武運を!」
「ああ! 武運を!」
夏樹はギーゼラの親指を立てた後、消えるような速さで移動した。
ぜっくんの力を感じる。
最前線のそれも先頭に立っているのはいい度胸だ。
「夏樹に続くんじゃ!」
「おう!」
夏樹に遅れて、小梅たちが続くのがわかる。
彼女たちの強さは信頼している。
叶うなら一緒に戦いたいが、夏樹が戦場で得意とするのは「聖剣さんとふたりで大暴れすること」だけ。
今できる全力を出すのであれば、小梅たちでさえ巻き込む可能性がある。
それは避けたい。
「――聖剣さん、最初っから七割で行くよ」
「ええ。さっさと殺して、こんな世界から帰りましょう」
「喜んでー!」
魔王城の城壁が崩れるほどの力で蹴り飛んだ。
大きく跳躍した夏樹は、聖剣を手にして固く握る。
魔力を身体に巡らせて、今できるすべての力を解放する。
「とりあえずぜっくんだ! アマイモンはあと回しだ!」
ぜっくんの強さは未知数だが、アマイモンはそれ以上だ。
できることならアマイモンに集中したいが、事を大きくしている元凶から潰すべきだと判断した。
高笑いするぜっくんを見つけた。
隣にいる青年も力がある。特に外見が、奇抜だ。
しかし、後回しにする。
「――やあ! ギャラクシー河童勇者の由良夏樹くんだよ!」
聖剣を振るう。
身体を真っ二つにするつもり振るった。
戦いをするつもりはない。
殺すことだけを考える。
ぜっくんと目が合った。にやり、と笑う。彼も笑った。
ぜっくんの胸が裂け、鮮血が吹き出した。
「浅かったか」
「絶望的に、痛くて興奮する! さすがなっちゃん! 俺を絶望させてくれる人間は、君だけ、だ!」
「相変わらず鬱陶しい話し方しやがる! 耳障りだから早く死ね!」
「絶望的につれないではないか! ぜっくん、悲しい!」
「うぜえ!」
聖剣を縦に振るう。
夏樹の剣速は光の如く。
煌めいた瞬間、ぜっくんの肩から腹にかけて縦に斬り裂かれる。
赤黒い返り血が夏樹の顔を染める。
「絶望的だ! こんなに絶望的なのは初めてだ! もっと味わいたい! この絶望を!」
「――想像していたよりも、硬い」
「なっちゃん対策だよ! すべての力を絶望的に防御に注いでいるの、さ!」
「そりゃ絶望的だ! なら、何度も斬ってやる!」
「なんと絶望的な宣言! ――しかし、俺はなっちゃんの絶望する顔も見たい!」
夏樹が三度目となる攻撃を仕掛けた。
ぜっくんはあえて聖剣を受け止める。
「絶望的だぁああああああああああああああああああ!」
「このまま死ね!」
血を吹き出しながら、絶叫するぜっくんをこのまま押し殺そうと力と魔力を込める。
「――幸福の! 未だ!」
「よく止めた。褒めてやる。――開門」
どこからともなく鐘の音がなった。
夏樹の身体が硬直する。
「な、んだ」
「――なつ、き」
夏樹だけではない。
聖剣さんも動けない。
「ぜ、ぜぇ、ぜ、ぜーっぜっぜっぜっぜっぜ! この時を、この時を絶望的に待っていた! だが、絶望的に成功した! なっちゃんは仲間を頼らない! 頼るのは自らの力と聖剣だけ! 絶望的に、一人で先走って目の前に来るとわかっていた!」
夏樹の真下に「門」が現れる。
さほど大きくないが、夏樹を丸呑みにできるサイズだった。
身体はやはり動かない。
「さあ! 幸福の! 絶望的になっちゃんに自己紹介してあげたまえ!」
「仕方がない、名乗ってやる。よく聞け、人間」
青年は、動けない夏樹から血まみれのぜっくんを引き剥がした。
「夏樹ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
背後から小梅たちの声がする。だが、振り返れない。
「俺はいくつか名を持つ新たな神々だ。絶望の神のように俺を幸福の神と呼ぶ者もいる。他にも、門の神とも言われている。他は、まあいいさ」
「……門の、神、だと。お前が、勇者召喚を」
「ああ、そこまで知っているのか。なら話が早い。俺にはいくつか呼び名はあるが、本来の名を名乗ってやる」
青年のオッドアイが夏樹に向いた。
「――俺は異世界召喚、異世界転生を司る神」
「――な」
「お前が一番嫌いであろう新たな神々だ」
「――まさか」
夏樹は目だけで、下を見た。
ゆっくりと門が開こうとしている。
「そのまさかだ。今から、お前を異世界に招待してやる」
「ぜーっぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜ! さあ、なっちゃん! 絶望的に絶望な顔を見せてくれ! なっちゃんが嫌いな異世界召喚を再び味わう絶望感を、さあ! さあ!」
「お前の敗因は、俺を無視したことだ。ま、そうなるように俺は力を削っていた。この世界で、否、絶望の神と組んでから一度として力を使っていない。この日のためだ。光栄に思え」
夏樹は、中指を立てた。
「上等だ」
夏樹が動いたことに、ぜっくんと青年が目を剥く。
「――絶望的だ!」
「笑えるな、俺よりも力が上か! お前、本当に人間か!?」
ゆっくりとだが、夏樹が動き出す。
門が開く。
見えないなにかが夏樹を絡みとっているのがわかった。
すべて力任せに引きちぎっていく。
門が開く。
夏樹が聖剣を振るう。
青年の左腕を斬り飛ばした。
狙っていたのは首だった。
「――ちっ」
「なんて恐ろしい奴だ。だが、俺の勝ちだ」
門が完全に開ききった。
夏樹の身体が門の中に沈んでいく。
「さあ、勇者様。異世界を救ってくるといい」
「――お前の顔は覚えた。絶対に殺してやる」
「はっ、やってみろ」
「覚えておくといい、河童の守護聖人にして河童大神様の使徒であるギャラクシー勇者は戻ってくる! 河童さんがいる限り、ギャラクシー河童勇者は不滅だ!」
「……悪い、意味わかんない」
夏樹はそう言い残して門の中に消えた。