作品タイトル不明
68「戦いが始まるんじゃね?」①
王都の外の集落を破壊した夏樹だったが、ガネーシャと共に魔王城に戻ると、何食わぬ顔をして朝の緑茶を飲んでいた。
「ジャパニーズ! グリーンティー! フゥウウウウウウウウ!」
「……なんかごめんね、ガネたん。ティーパックのお茶でそんなに喜んでくれるなら茶葉をちゃんと用意しておけばよかったよ」
すっかり夏樹たちの拠点となった魔王城の中庭で、夏樹は携帯食を口に放り込み、ガネたんは林檎を食べる。
「……なんじゃ、夏樹起きとったんかい。――って、ガネたん! おったんか!」
「いたぜぃ! 忘れてもらっちゃ困るぜぃ!」
「全然記憶にないんじゃが」
「ガネたんは俺がお願いして人探しをしてもらってたんだ」
「そうだぜぃ!」
「ほーん。んで、探し人は見つかったんか?」
「うん。ちゃんと殺しておいたよ!」
「…………俺様もながーく生きとるが、こんな屈託のない笑顔でその返しはときめいてしまうんじゃが」
ぽっ、と頬を染める小梅に、夏樹が照れて顔を赤くする。
「……ごめんね、ガネたん意味わかんないぜぃ」
そんなやりとりをしながら、小梅がインスタントコーヒーを飲んで夏樹の隣に座った。
「おはようございまーっす!」
銀子が起きてきて、小梅が彼女の分のコーヒーを淹れて手渡す。
「どうもっす。いやぁ、テント生活も五日目になると慣れますねぇ」
「そうじゃのう」
「俺はベッドが恋しいかな!」
あはははは、と笑う銀子と小梅に対して、空気を読まず夏樹だけが本音を吐き出す。
「んなこたぁ、こっちも同じっすから!」
「俺様だって、春子ママのごはんが食べたいんじゃ! バーベキューは好きじゃが、毎日は嫌なんじゃ!」
「だよねぇ!」
毎日イベントがあるので飽きはしないが、夕食と就寝になるとなんというか冷静に戻る。
テントの中で眠っていると、不意に「家に帰りたい」と思うのだ。
「五日で結構しんどくなったって思うと、よく夏樹くんは数年もいたっすねぇ」
「本当じゃ。しかも娯楽も酒もないんじゃろう?」
「ご飯も水も口にしなかったよ!」
「……勇者じゃなくて仙人じゃないっすかね」
「なんかこわいんじゃ」
我ながらよくこんな世界に数年いたと感心する。
しかも、現在のテント生活の方が百倍マシなのだから、笑えてくる。
「そんな異世界生活もそろそろ終わりだと思うよ。ぜっくんにちゃんと挑発したから、これで今日来なかったら相手にする価値がないよ」
夏樹がうーん、と背を伸ばした時、魔王ギーゼラ・シラーが現れる。
「あ、ギーゼラさん。おはよー」
「おはよう、由良夏樹たち」
「徹夜だった?」
「ああ。お前たちが遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたので、会議に集中できなかったのだ!」
「それはごめんねー」
「まあいい。会議は無事終わり、準備もできた」
ギーゼラの言葉の意味を夏樹たちが理解した。
魔王は笑う。
「あとは勇者たち次第だ。私たちはいつでも出れる!」
「ちょっと待ってね、今、原稿準備するから!」
夏樹の頭を小梅と銀子とガネーシャがてしーんと叩く。
「なーんでおどれが出撃前のスピーチしようとしておるんじゃ?」
「魔族さんたちもびっくりっすよ!?」
「なっちゃん、一応は敵だったんだからこっそりしておいたほうがいいと思うぜぃ」
三人に突っ込まれ、
「えー。校長先生みたいに延々と無駄な話をしたかったのに!」
夏樹は不満な声を出した。