作品タイトル不明
間話「秘密基地ってわくわくするんじゃね?」①
佐渡ひなたは、突然であった魔法熟女――否、魔法少女田中くれないに連れられて、向島市にあるとあるビルに連れて行かれていた。
廃ビルではないが、五階建ての全てのフロアの窓に「テナント募集中」と書かれている。
「ここは、ただのビルに見えるけど……ただのビルよ」
「もったいぶる必要あった!?」
「冗談よ。目的は、この地下にあるの」
「もしかして……魔法少女の基地的な感じですか?」
「そうよ。ふふ、懐かしいわね。かつては、仲間と一緒に用がない日も集まってお菓子を食べたりしていたのに、今じゃあ魔法少女も私だけ」
「……あの、悲しくなるからそういうこと言うのやめてくれませんか?」
魔法少女の秘密基地に少しワクワクしていたひなたは、テンションが下がったのがわかった。
(……まさかとは思うけど、魔法少女になったら結婚できないなんてことはない、よね?)
よく考えれば、くれない以外の魔法少女たちは結婚している。
ならば、問題ないだろう。
あとは兄を攻略するだけだ。
「いろいろ驚くだろうけど、気を強く持ってね」
「……急に不安になるんですが」
「慣れるから、大丈夫よ」
「すっごく不安!」
今からでも逃げ出したい衝動に駆られるが、そんなひなたの胸の内を読み取ったのか、くれないが腕を掴んだ。
「さあ、いきましょう! 新たな魔法少女の爆誕よ!」
「あ、力強い! 逃す気ないな、この人!」
ビルの中に入り、無人の廊下を歩くと、エレベーターに乗った。
くれないは指を伸ばし、ボタンを無造作に押しまくった。
「――ちょ?」
「大丈夫、これはパスワードだから」
「エレベーターが開いたら異世界だったなんて嫌ですからね!」
「やあねえ、そんな都市伝説が実際にあるわけないじゃない」
「魔法少女なのにそんなこと言うんですか!?」
どの口が言うのだ、とひなたが突っ込む。
エレベーターが下降を始めた。
「都市伝説といえば、向島市にも噂というか、いるかいないかわからない存在を聞くのよね」
「そうなんですか?」
「ええ。とってもおかしいのよ。女性なら誰でも手を出す最低な女たらし」
「……あ」
「ふらりと現れては不良たちをちぎっては投げ、やのつく自由業の事務所に単独で乗り込み、素行の悪い大学生をボッコボコにして舎弟にしているとか、そんな漫画みたいにね」
「あー」
大人には噂程度なのかもしれないが、前者も後者も知っている。
どちらもひなたの中学校のひとつ年上の先輩だ。
とくに後者は、「向島のなまはげ」と名高い由良夏樹だろう。
意外とマイルドに伝わっていることに、少し苦笑してしまう。
「さ、ついたわ」
エレベーターが止まり、ゆっくり扉が開かれる。
「…………」
魔法少女の秘密基地は、パイプ椅子、パイプ机、簡易ベッドが並ぶ殺風景な部屋だった。
ロッカーも学校で見るような無骨なものだ。
申し訳ないようにメカメカしい通信機器が置かれている。
「……言い訳に聞こえるかもしれないけど、以前はもっと可愛い部屋だったのよ。でもね、ほら、いい歳をした私がひとりで使うのはしんどくて」
「な、なにも言ってませんけど!」
きらり、とくれないの瞳に光るものが見えたのは気のせいだと思いたい。
「ごほん。さあ、司令にひなたちゃんのことを紹介するわ」
「司令、がいるんですか?」
「もちろんよ。とても頼りになる方だわ。立場のある方でもあるので、失礼のないようにね」
「――はい」
ひなたは緊張する。
魔法少女を指揮する者はどんな人物なのだろうか。
ぶぉん、と電子的な音が響くと、通信機器が光る。
背丈ほどのモニターがあることに気づいた。
「やあ」
男性の声が響いた。
「司令」
「くれないくん、ごきげんよう。その子が、君が見つけた魔法少女の素質を持つものかね?」
「はい。素質は私よりも高いです。最高の魔法少女になるでしょう」
「それは素晴らしい」
モニターには、人物は写らず「司令官」という文字だけが表示されていた。
「あ、あの」
「ごきげんよう、お嬢さん。声だけで失礼するよ。私の姿を見せるには、まだ早いと判断させていただいた。失礼に思われるだろうが、私にも立場があるため、どうかご理解いただきたい」
「い、いえ、構いません」
「ありがとう。君が本当に魔法少女になってくれるというのなら、信頼の証として私の姿を見せよう」
「はい」
モニターの向こう側で、ほっとしたような吐息が聞こえた。
「とはいえ、自己紹介をしないのはさすがに礼儀に反するね」
「私は、佐渡ひなたです!」
「ありがとう。くれないくんたちは私を司令官と呼んでくれるが、きちんと名乗らせていただこう」
「私の名は、――ジョニー・ドランナック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻」
「名前なっが!」