作品タイトル不明
69「戦いが始まるんじゃね?」②
「あーあー、やる気なくなっちゃったなー」
夏樹は芝生の上に寝転がって不貞腐れていた。
校長先生よろしく魔王軍にお話をしようとしたのを、小梅と銀子とガネーシャだけではなく、起きていた千手たちにも止められたのだ。
ついには、ギーゼラが「準備ができたらきてくれ」と夏樹を置いて行ってしまった。
これで夏樹は子供のように頬を膨らませてしまったのだ。
「――おどれは子供か!」
「小梅さん、一応、夏樹くんは子供っすよ!」
「この世界で数年過ごしとるじゃろう! 二十歳くらいの精神年齢にならんのか!」
「……フォローするわけじゃないっすけど、最近の二十歳はあんなもんっすよ」
「そういや銀子も去年は二十歳じゃったのう! あんな感じじゃったんか?」
「いいえ、全然違うっすね。もっと大人でした」
「今のやりとりなんじゃったんじゃ! くっそ時間の無駄じゃったんだが!」
小梅と銀子のやりとりに、他の面々は入ってこない。
それぞれ戦いに向けて装備の最終点検だ。
祐介でさえ、いくつか籠手やグローブなど防具をソーニャに見繕ってもらっている。
鬼姉妹たちは、人の目を気にせず大暴れできることに喜んでいるが、どことなく怯えているようにも見えた。
東雲と円はもともと戦いに慣れているが、異世界の、それも人間を相手にすることに緊張を見せていた。とくに、魔法を使う者への警戒心は大きい。
また、どこに新たな神々に汲みする魔族、神がいるのかわからないため、防御面はもちろん攻撃面でも念入りに準備している。
征四郎は目を瞑り精神統一している。だが、彼の背後で二丁拳銃を構えている義政が気になって仕方がないようだ。
水無月姉妹は、対人戦は得意ではないようだ。
とくに都はとある少年に両断されたことがトラウマなので、剣を相手にしたくないようだが、姉に励まされて今はやる気になっている。
一登は意外と冷静だ。
ある意味、一番戦いの経験がない。
しかし、兄関係や、夏樹の喧嘩に巻き込まれたり、宇宙で海賊相手に大立ち回りをしているので、肝は据わっている。
フン・フナフプは、戦いに参加しないことを約束しているが、魔族の非戦闘民を守るくらいはしてくれるらしい。ガネーシャも同様だ。
ベヒモスは最初こそフン・フナフプと同じ立場だったが、戦いが近づきうずうずしてきてしまい、大暴れする気満々だった。
「やれやれ」
千手だけがいつもと変わらずだった。
電子煙草を咥えて、サングラスを磨いている。
「……意外っすね。千手さんが一番慌てふためくと思っていたっす」
「青山……俺は一応、プロだぜ。荒事には慣れているし、由良のおかげで宇宙で大暴れした経験もある。異世界人? 宇宙人よりも怖くねえんだよ!」
「あ、それはわかるっす!」
「なによりも俺には偉大なる神ジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻様のご加護がある。――俺は、無敵だ!」
「あ、はい。そうっすね」
そういえば、と銀子は千手がジャックを信仰していたことを思い出す。
普段はツッコミ役なのだが、ときどきハメを外すので油断できない。
「そろそろ機嫌直せよ、由良ぁ!」
「嫌だもん!」
「こ、こいつ……」
サングラスを掛けて夏樹を立たせようとするも、夏樹は動かない。
「……準備しなくていいのか?」
「あのさ、千手さん。雑魚が一千人集まっても雑魚なんだよ」
「言い方ぁ!」
「ていうか、俺は身体強化が最強の防具だからへーきへーき」
「まあ、神々と喧嘩できる由良の力を疑っちゃいないがな」
「基本的に攻撃ならなんとかするって。一番おっかないのは、攻撃以外かな?」
「なんだ? 精神系とかか?」
「んにゃ、一度食らったことがあるんだけど、強制転移かな。あれ、仕組みがわからないから」
「……転移は俺もわからねえな。使える奴なんて、そうそういないだろ。それこそ神や魔族の領域だ」
「だよね。だから、あまり心配していないかな」
「ま、お前さんなら大丈夫だろうさ」
千手が差し出した拳を夏樹が拳で応じた。
「んじゃ、そろそろ行こうぜ」
「や!」
「お前なぁ!」
聖剣さんは夏樹に呆れた顔をしていた。
彼女の隣には、名無しが立っていて、夏樹を見てため息をついている。
「……あんなのがいいの?」
「夏樹の良さがわからないなんて、まだまだ子供ね。それよりも、はい」
「……なによこれ」
「ティッシュよ。鼻血が出たら使いなさい」
「……使わないから」
「いいえ、断言するわ。あんたは、大興奮して鼻血を出す!」
「どんな予言よ」
「ほっほっほ」
老人が二人のやりとりを見て微笑んでいた時、不意に遠くを見た。
次に反応したのは夏樹だった。
急に立ち上がると、顔から表情を消して常闇の剣を引き抜き、振るう。
魔力の刃が放たれ、魔王城に凄まじい速さで向かっていた攻撃魔法とぶつかり、相殺した。
「クソ異世界人共……いきなり先制攻撃とか良い根性じゃん。俺よりも先に先制攻撃するなんて生意気な! ――行くぞ、みんな!」
「――おう!」
「異世界人を鏖殺だ!」
剣を掲げる夏樹だったが、返事はなかった。
「あれ?」
「……鏖殺はせんというとるじゃろうが! こんのあんぽんたん!」