作品タイトル不明
65「お前が悪いんじゃね?」②
「さてさて、フルチン……あれ? 違ったっけ? あ、マルティンだ。ごめんね、素敵なお名前間違えちゃって!」
「ひ、ひぃ」
「なに? 謝ったのに許してくれないの? ひどくない! ねえ! ひどくないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「ひぃいいいいいいいいいいいい!」
「俺っちてきにはなっちゃんの情緒が怖いんだけどなぁ」
鼻と鼻が触れ合いそうになる至近距離で空気を震わすほどの大声を出す夏樹に、ガネーシャは引き気味だ。
「おっと、勇者としたことが失敬、失敬。んじゃ、あまり脅かすのも可哀想じゃないけど、ちゃんとやろうか。――マルティン。てめぇ、勇者召喚をどこで知った?」
「な、なにを」
「開発したっていうのは、聞いている。だけど、俺はそうは思わない。お前程度の魔力と、今もこうして怯えているだけでなにもできない愚図が勇者召喚を可能にする魔法陣を考えたとか、笑わせるなよ?」
魔剣を抜き、マルティンの首へ添える。
少しでも力を入れれば、鮮血が舞うだろう。
「――答えろ。つーか、仮に勇者召喚魔法を開発していたとして、なんでお前が逃げ回ってんだよ? そのせいでガネたんが大変だったじゃねえか?」
「そ、それは、その」
「はきはき喋ろ。いいか、お前は俺のご機嫌を損ねないことを第一に考えるんだ。俺は今すぐにでもお前を殺したい。できるだけ時間をかけて苦しめて殺したいほど恨んでいるんだ。そんな俺を苛立たせるメリットってなくね?」
マルティンは震え、変な声が出そうになった。
夏樹は顔こそ笑っているが、目がまるで笑っていない。
言葉通りに少しでも気に触れば、殺すだろうと理解できているのだ。
「……私は……ブレイバーズ王国で生まれた……父は不明だ」
「それで?」
「ハーフは魔力が強い。だが、ハーフであることがバレたら殺されてしまう。だから、私は魔族の血を引くことを隠していた」
「ふむふむ」
「私は、親を恨んだ。ハーフという不都合な身で生まれてしまったことを嘆き」
「あ、そういうのいいから。簡潔にね。あんたの身の上なんて、ラノベだったら読者さん飛ばしちゃうよ? ささ、肝心なところだけでいいからね」
夏樹が促すと、マルティンは震えて頷く。
「私は魔王を倒したかった」
「ほうほう」
「同時に、ブレイバーズ王国も滅ぼしたかった」
「いいねぇ。そういうのを待っていたんだよ。それでそれで?」
「聖剣を使えることができれば、両者を殺せると考えた。しかし、私には無理だ。何人も聖剣を使おうとして焼き殺されている。ならば、使える者を呼べばいい」
「それで、聖剣の使い手を召喚しようと考えたってことか?」
「そ、そうだ。勇者召喚ではない、聖剣の使い手を呼び出す術を考えた。ずっと、考えていた。資金の問題があったので、聖剣を扱う勇者を呼ぶ手段の研究としていたが……私にはできなかった」
「でしょうね」
「しかし!」
「うわっ、なに急に大きな声出すとか情緒不安定なの!?」
マルティンの夏樹への怯えが、波が引くように消えた。
彼の目には、語りたくてしょうがないという欲が見えた。
「研究の果てに、召喚術はできなかったが、私は世界がひとつではないことを知った! 私は、この世界のどこかにいる聖剣の使い手を探していたが、この世界にいないのなら違う世界から呼べばいいと考えた!」
「そう簡単にいかないだろ」
「もちろんだ。しかし、すでにそんなことはどうでもよかった。私はこの世界ではない、別の世界に行きたくなった。こんな腐った世界に用はない! 数多の犠牲を出し、実験し、なんとか別の世界に行こうとしたのだ。そして、失敗を重ねていたとき、出会った」
「んん? 誰に?」
「――門の神」