作品タイトル不明
64「お前が悪いんじゃね?」①
日が変わり、明け方。
うっすら朝焼けが魔王城を照らしている中、夏樹はひとり城の外にいた。
仲間と河童さんたちは眠りについている。
酒も入ったせいでみんな気持ちよく眠っている。
夏樹は魔王城から見下ろせる城下町を抜け、魔族たちが居住区から離れた城壁の外をのんびり歩いていた。
その場は、王都の外で暮らす魔族たちの小さな集落だ。
簡易的な小屋が並び、怪しげな薬や食材が並び、見目美しい魔族が性別問わず立っている。
明け方にも関わらず賑やかだった。
「おーい、ガネたん!」
「おいーっす! なっちゃん!」
夏樹の探し人は、異世界に来てから別行動していたガネーシャ神だった。
片方の牙が折れた象の頭と、四本の腕を持つふくよかな神だ。
夏樹は彼にしかできない頼み事をしていた。
「時間がかかっちまって悪かったぜぃ!」
「こっちこそガネたん任せでごめんねー!」
両手でハイタッチした。
少しぐらい大きな声を出しても、気にする者はここにはいない。
「いやー、それにしても、さすがの俺っちもなっちゃんの探し人がこーんな近くにいたとは思わなかったぜぃ。灯台下暗しってやつだな!」
ガネたんが夏樹を手招きし、夏樹を小屋の中に促す。
小屋の中はカビと古本、薬の独特な匂いが充満していた。
そんな小屋の床には、縛られて転がされている中年男性がいる。
「やあ、おひさ!」
「――ひ」
夏樹が笑顔で挨拶すると、男は怯えた声を出す。
聞き覚えのある声に、夏樹は嬉しそうに唇を釣り上げた。
「ありがとう、ガネたん。これ、少ないけど」
「へへへ、お主も悪よのう」
夏樹はアイテムボックスからそっとポテトチップスの大袋を取り出し渡す。
ガネーシャはにこやかに受け取ると、さっそく開封した。
「これよ、これ。このジャンク感がいいのよ!」
もしゃもしゃと食べ始めるガネーシャにおかわりのポテトチップスと冷えたコーラを渡す。
「苦しゅうない苦しゅうない!」
「ははー!」
寸劇をしている間も、男は震えていた。
「んじゃ、ここからはバイオレンスってことでひとつ」
「頑張って……っていうのもあれだが、まあ、ほどほどにな。余計なことをしてもなっちゃんの心は癒えないだろうから、さくっと殺したほうがいいと思うぜぃ」
「そうだね。その前にお話は最低限しようかな」
ガネーシャの気遣いに感謝し、夏樹は震える男に近づきしゃがんだ。
「おはよーございまーすって、寝起きに襲撃したい気分だけど、起きちゃってるので残念」
「ひ、ひ」
「俺の顔、ちゃんと覚えているよね?」
男がこくこくと頷く。
「よかった。もし覚えていないなんて言われたら……ガネたんの助言も虚しく絶望的に苦しめるところだったよ」
「ひ、ひぃ」
「しかし、まさか変なおっさんだとは思っていたけど、まさか人間と魔族のハーフだったとはねぇ。しかも、魔族側の力が強いタイプか。あ、いや、別にハーフを悪いなんて言うつもりはないんだよ。だけどさぁ、人間側についていた奴が魔族の国に隠れているとか、お前どっち側だよ?」
男は震えて答えない。
「おーい、マルティン? こーたーえーてーよー! どんな気持ちで、勇者召喚の魔法陣なんてくっだらねえもん作ったの? どんな気持ちで、悪用されるってわかっていてブレイバーズ王家に渡したの? ねえ! ねえってば!」
夏樹の問いかけにただただ震える男。
――マルティン。
ブレイバーズ王国で賢者を名乗り、勇者召喚魔法を開発した男。
――夏樹にとって元凶であった。