作品タイトル不明
63「戦いの前に宴じゃね?」
――ずんずんずんどこ、どこどこずんどこ!
魔王城の中庭に太鼓の音が響く。
河童さんたちが円を描き、踊る。
河童の守護聖人と名高い聖剣の勇者由良夏樹も一緒に踊る。
酒を飲んでほろ酔いの小梅も、銀子も、星熊童子と熊童子も、ダークエルフのソーニャも楽しく踊る。
大地の勇者佐渡祐介はその神々しい光景に感涙し、魔眼使い七森千手は自棄になって高いウイスキーを飲んでいる。そんな彼の隣では、つまみのナッツを「あーん」する虎童子もいる。
鉄板で肉を焼く係に徹している神奈征四郎と、サングラスをかけて肉に塩胡椒を振る神奈義政。
安倍東雲は合流したフン・フナフプとベヒモスと一緒に肉を食べている。
安部円と水無月澪、水無月都は笑顔を浮かべて踊る夏樹たちを動画に撮っていた。
聖剣さんと名無しは、テーブルを挟んで口喧嘩している。看守役である老人はアウトドアチェアに深く座ってそんな二人を笑って眺めていた。
「……さっきから、ずんどこずんどこうるさいのよ! こっちが気になって会議が進まなくて予定よりも長引いているんですけど!」
盛り上がる夏樹たちに苦情を言いにきたのは、エルフ族の若き族長フェイリスだ。
ぴん、と尖った耳を持つ美しい少女だ。
最初こそ凛としたエルフだったが、小梅たちと一杯飲んでから素を見せるようになった。
魔王軍を蹂躙した夏樹に少なからず怯えている魔族の中で、物怖じせず言いたいことを言える少ない存在だ。
「フェイリスさんも踊ろうよ!」
「会議中だって言ってるでしょう! ていうか、河童以外にもなんか神々しいのと禍々しいのが増えてるし!」
「愉快な仲間たちだよ!」
「本当に愉快よね! でも、笑いえないんですけど!」
夏樹は河童たちの輪から抜けてフェイリスに駆け寄った。
不機嫌を隠さないフェイリスは文句を続けた。
「私だって文句を言いたいわけじゃないんだけど、仮にも魔王様のお城であり、魔族の各種族の長が集まって人間たちをどうせめるかってシリアスに話しているのに、外でずんどこずんどこされると空気が緩むのよ! グランドル殿なんて、混ざりたがっているし! ソーニャ殿、ラーラ殿も会議を抜け出そうとするし!」
「なんかごめんねー」
「悪いと思ってないでしょう!」
「うん!」
「こ、このクソ勇者……」
プルプル震えるフェイリスであるが、夏樹は態度を崩さない。
「まあまあ、この踊りは河童大神様への感謝と、これから起きる戦いへの鼓舞だよ」
「……そんな神様は知らないけど、鼓舞?」
「そうそう。人間側についている神々にちゃーんと喧嘩売っといたからさ。俺がぜっくんだったら、絶望的に挑発された! って叫んで明日には本気で進軍すると思うよ」
「魔王様には」
「もちろん、言ってあるさ」
「……ならいいですが」
フェイリスは咳払いし、周囲を見渡してから夏樹に一歩近づき問う。
「このようなことを聞くのは癪ですが……人間側に神や勇者がいる状況で、勝てると思っているんですか?」
「――勝つさ」
夏樹に躊躇いはない。
「勇者? 新たな神々? そんなこと知るか。俺の前に立ち塞がる奴は、斬り殺す。今までしたように、これからも。それは絶対に変わらない」
「――ひゅ」
笑顔を浮かべたつもりだったが、フェイリスが変な声を出した。
もしかしたら失敗していたかもしれない、と顔をもにもに揉む。
「ブレイバーズ王国軍は魔王軍に頼むよ。新たな神々や、魔族、勇者はこっちで引き受けるから」
「……ひとつだけ」
「うん?」
「ひとつだけ聞かせてください」
「なぁに?」
「なぜ由良夏樹、あなたは魔族側についてくれるのですか?」
そんなことか、と夏樹は肩の力を抜いた。
もっと答えにくいことを聞かれるかと思っていた。
「この世界の人間が大っ嫌いだからだよ」
夏樹の答えに、フェイリスはぽかんとした顔をした。
しばらくして、吹き出す。
「ふっ、ふふっ。そうですか、人間が大嫌いだから、ですか。奇遇ですね、私と一緒だ」
彼女は夏樹に手を差し出した。
「警戒心はまだあります。ですが、魔族と一緒に戦ってくれることに感謝もしています」
「うん」
夏樹は握手に応じた。
「戦いに勝つため、どうかお力を」
「ういっす!」