作品タイトル不明
58「もうちょっと頑張ってほしくね?」①
結局、明日香がなにを考え、なにをしたいのかわからなかった。
ひとつだけわかることは、関わらないほうがいいということだ。
しかし、そうはいかないだろう。
夏樹たちが魔族と共にブレイバーズ王国に攻め入るのであれば、敵として立ち塞がるはずだ。
(――俺は別になにも思わずに殺せるけどさ)
夏樹としては、帰りを待つ人がいる綾川杏を連れて帰れるのなら帰りたいと思っているが、明日香のことまでは知ったことではない。
明日香の両親と交流があるわけではなく、同級生としてもほぼ無関係に近い。
夏樹としては、異世界にきてしまったことはさておき、力を得て好き勝手したのであれば、その報いは受けるべきだと思っている。
夏樹自身、地球に帰るために魔族を、人間を殺した。
その報いが待っているのであれば、抵抗はするが人のせいにはせず向き合うつもりだ。
(だけどさ、そもそもの話として俺も、松島明日香も、綾川杏も、召喚した奴が一番悪いと思うんだけどね)
この世界に喚ばれさえしなければ、力を得ることも、その力を振るうこともなかった。
責任転嫁をしたいわけではない。
この世界の人間が悪いというのは、大前提としてあるのだ。
夏樹はその意見だけは絶対に曲げない。
仮に、勇者召喚されたことで小梅たちと出会えたとしても、絶対に感謝はしたくない。
(さっさと片付けて日本に帰りたいなぁ)
「それで、吉田さんたちはこれからどうするの? ブレイバーズ王国に戻って密偵の続きをするって感じ?」
「……そうだね。実を言うと、帰る手段がぜっくんしかないから戻らないと帰れないんだよ」
「無計画すぎ!」
密偵をして情報を得てもその情報をどうやって渡すのかまで考えていないことに、夏樹はひっくり返りそうになった。
吉田たちが苦笑してる。
「なんていうか、ぜっくんが求人募集していたから」
「これだって思って反射的に応募しちゃったぜ!」
「正直、失敗したと思いましたね。しかし、ここに君たちがいる」
「言わなくてもわかっているさ!」
「サタン様のスーパーパワーでこっちの世界に来たんだろう?」
「帰還の際はぜひ私たちもご一緒させてください」
「俺たちゴッドの力でこっちの世界に来たんですけど」
夏樹が誤解を解こうとすると、吉田たちはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「……ゴッドめ」
「なーにがあなたたちは堕天できないと思いますよ、だ!」
「せめて機会くらいくれてもよかったのですが、ゴッドはくれませんでした」
堕天できなかったことから吉田たちのゴッドへの感情は複雑らしい。
「みんな気にしてると思うから代表して聞くけど、どんなことして堕天しようとしたの?」
夏樹が疑問をぶつけると、吉田たちは苦い顔をした。
あまり知られたくないのだろうか、と質問したことを反省する。
「あ、言いたくないのなら、ごめんね」
「いや……君たちの意見を聞くことで僕たちの行動がどう間違っているのかわかるのなら構わないんだが」
「……結構ひどいことをやってきたからなぁ」
「引かないでいただけるとありがたく思います」
どれだけひどいことをしたのだろうか、と気になる。
一同に振り返るとみんなも知りたいようで「うんうん」と頷いている。
「引かないから大丈夫ですって。どうぞぞうぞ!」
夏樹が促すと、吉田たちは躊躇いがちに言った。
「――えっちな本を読みました。数ページで気絶してしまいましたが」
「――いつもよりもワインの量を増やしたぜ! 気持ち悪くなっちまったぜ!」
「――人に関わっていけないと言われながら、食料を与えてしまいました。しかし、飢えた子供を見捨てられませんでした」
まるで懺悔するように悪行を打ち明ける吉田たち。
「――そりゃ堕天しないわ!」
夏樹の言葉は、全員の本心だった。