作品タイトル不明
57「結局力押しするしかないんじゃね?」①
「……なるほど、明日香さんがそんなことに」
「えっと、敵が減ったって喜んでいい状況じゃないよね?」
河童の里にきていた向島愚連隊が集合し、天使の吉田、山田、金田を紹介すると、ブレイバーズ王国にいる松島明日香の話をした。
一登は親しくなかったとはいえ、知り合いの変貌に驚くしかないようだ。
祐介は単純に新たな神々側にいた者たちが減ったことに喜んでいいのか悪いのかわからないようで、腕を組んで悩み顔だ。
「数だけの雑魚を力にして、人を超えた何かに変貌を遂げてしまったのであまり喜ばしい状況ではないと思いますよ」
金田が眼鏡を布で拭きながら答える。
そりゃそうだ、と夏樹は同意する。
雑魚ならば、いくら数がいても苦ではない。
まとめて倒せばいい、それだけの話だ。
しかし、強い敵というのは厄介だ。
相手にするだけで疲れるし、面倒だ。
強い敵に構っている間に雑魚が好き勝手するのも苛立つ。
問題は、松島明日香の力がどれだけか、というものだ。
夏樹が戦ってきた相手は人間では逆立ちしても勝てない者たちだ。
聖剣の勇者であり、海の勇者であり、異世界で数多の戦いを経験した夏樹だからこそ、戦えたと言える。
ただの中学生だった松島明日香が、それほどの力を得たかどうか疑わしい。
しかし、密偵中の天使がわざわざ教えにきてくれたほどだ。
かなりの力を持っているのだろう。
夏樹は楽観視こそしないが、特に気負いはしない。
いつも通りだ。
敵として目の前に立ち塞がるのなら、斬り殺すだけだ。
「……少しやり辛いですね。決して仲良くできない子でしたが、敵として戦うことになるとは。お話を聞く限り、魔に堕ちているとのことですので、対処としては――」
「都、あまり思い詰めないでね」
「うん、お姉ちゃん……うへへ」
都は明日香が取り返しのならないことになっている可能性を考え、暗い顔をしていた。
姉の澪が慰めるように、頭を撫でる。
「ねえね、吉田さん、山田さん、金田さん」
「なにかな、夏樹くん」
「なんでも聞いてくれていいぜ!」
「お答えできることならなんでも」
「ありがと。じゃあ、聞きたいんだけど、松島明日香ってそんなに力を得てなにするつもり?」
「さあ?」
「しらね」
「まるでわかりませんね」
「おい!」
何も知らない天使たちに、夏樹が突っ込んだ。
吉田が慌てて補足する。
「待って待って、本当にわからないんだよ。彼女は、その性に奔放でね。僕たちにはわからないが、なにかの魅力があるようだ。暇さえあれば、男女問わず複数人で部屋に篭り……糧にされてしまう。恐ろしいのは、糧にされるとわかっていながらみんな喜んで応じていることだ」
「意味がわからねー!」
「人間だけではなく、天使、神、魔族、それこそ新たな神々も糧にされている。正直なことを言うと、僕は彼女が怖いよ。どれだけ強くなったのかわからない」
吉田の身体が小刻みに震えていることを夏樹は見逃さなかった。
「少しいいでしょうか?」
「待ってました、義政先生! どうぞどうぞ!」
「では、お言葉に甘えて」
眼鏡をくいくいしながら、義政が問う。
「松島明日香さんを僕は存じ上げませんが、魅了を持っているということはないのでしょうか?」
「ない。それは間違いない」
吉田は断言した。
「僕たちも魅了は疑った。だが、神や魔が使う魅了だって誰にでも効くものではないんだ。強い心があれば、それこそ心から愛している人がいる、家族がいる、友がいる、それだけで弾くことができる。魅了など大した力じゃない。もちろん、高位の神や魔族が使えば話は別だろうが、それでも絶対じゃない」
「魅了ってそんなもんなんだ?」
「もちろん、強い心を持つということは難しいことだ。普段、強い心を持っていてもちょっとした緩みや隙があれば、魅了は通じてしまう。魅了は永久に続くものではないが、きっかけを与えてしまうと、魅了を自身の感情だと勘違いさせてしまえば次の魅了も効く。僕たち天使には信じられないが、ときに異性の心の隙間につけ込むことを得意とする者はいるんだよ」
「あー」
そんな奴いたなぁ、と夏樹が苦笑する。
「もう一度言うが、松島明日香は魅了を持っていない。その、彼女個人に魅力があるのかもしれない」
「それはないわー」
「……ないかな」
「絶対にありませんっ!」
夏樹、一登、都が声を揃えた。
「……あ、はい」
吉田が気圧される。
「ふむ。松島明日香さんが魅了を持っていないことはわかりました。不思議ですね、なぜ糧になるとわかって近付くのでしょうか? 僕にもわかりかねます」
「よ、義政先生にも解けない謎があるんですか?」
「申し訳ありません。僕もただの五歳児です。幼稚園で教わった以上のことは……」
「そうでしたか……いえ、いいんです。義政先生に頼らずとも、ぶっ殺せばいんですからね!」
「……結局力押しですね。しかし、それでいいと思います。ときには力で解決しなければならないことがあるのです。悲しいかな、それが生命というものですから」
「ふ、深い!」
義政少年の言葉に、夏樹は感銘を受けた。