作品タイトル不明
56「知り合いの天使じゃね?」③
「――密偵? スパイってことですか?」
夏樹が聞き返すと吉田たちが頷く。
「はい。僕たちは、自称サタン親衛隊、自称ピュアくんの部下、自称天界一の密偵です!」
「……全部自称じゃん。あと、密偵が有名って駄目なんじゃね?」
夏樹は小梅に「知ってる?」と聞くが「知らん!」と反射で返事が返ってきた。
「自称が気になるけど、ぜっくんたちの情報があるってことだよね?」
「もちろんだ!」
「言っておくが、ぜっくんはやべーぜ!」
「正確に言うと、ぜっくんが喚んだ勇者がやばいんですけどね」
勇者と聞き、夏樹は綾川杏を思い浮かべた。
しかし、名は浮かぶも顔まで浮かばない。
「まさか、綾川さんちの杏さんが?」
夏樹が尋ねると、金田が返事をしてくれた。
「いいえ、彼女は少々その場の勢いで動いてしまう癖があるようですが、ガープとアマイモンと一緒にいることもあり、そこまで大きな問題は起こしていません」
「……ガープとアマイモンと仲良くなっているのはなんで!?」
「ガープは世話焼きですからね、放っておけなかったのでしょう」
「そっか」
「アテーナーも綾川杏のことを気に入っているので、まだ戻ってこられる範疇にいると思います」
「……うん、一登に伝えるよ。ありがとう、金田さん」
「いいえ、お礼を言われることではありません。ですが、戻ってくることができるといいですね」
金田は夏樹を気遣い微笑んだ。
「問題は、もうひとりの勇者の方だよ」
「え? 待って、勇者って複数人いるんでしょう?」
「今は、ふたりしかいないんだ」
「なんでぇ?」
「すべて、殺されたんだよ。あれを殺したと言っていいのか、僕は悩むけどね」
吉田は何かを思い出したのか、苦い顔をしていた。
夏樹は、小梅、銀子、千手、東雲、ギーゼラたちを伺う。
ぜっくんがブレイバーズ王国で何やら暗躍しているのは知っている。
人間を使って魔族を殺し、神として君臨するらしいが、全貌がいまいち見えないのだ。
「とーっても、嫌な予感がするけど勇者がなにをしたっていうんだ?」
「人間を、天使を、魔族を、糧にしているんだ」
「……どういうこと?」
「エナジードレインをどういうわけか強化したらしい。男も女も、子供も老人も関係ない。交わって取り込んで強くなっている」
吉田が吐き気を堪えるように言った。
山田と金田も続ける。
「エナジードレイン自体は珍しい力じゃないんだが、あの力はもうエナジードレインって呼んでいいのかさえわからねえぜ」
「同感です。ですが、問題はそこではないのです。あの娘――松島明日香は、天使や神々、または魔族の領域に足を踏み込みました」
「ふむふむ。……誰だそれ?」
夏樹の頭を小梅と銀子がてしーんと引っ叩いた。
「そういうのはええんじゃ!」
「夏樹くんと一登くんの自称幼馴染みで、男子生徒といろいろあれこれして転校ってことになった子っす! なぜか知らないっすけど、こっちの世界で勇者やってるって聞いたじゃないっすか!」
「あー、なんとなく思い出した。ごめんごめん、覚えていたかもしれないけど、河童さんの情報量が多くてところてんみたいにすぽーんって抜け出ちゃったんだと思う」
「おどれの脳は便利にできとるのう!」
「めんごめんご!」
顔はやっぱり思い出せないが、名は思い出した。
さてどうするか、と悩み、夏樹は決めた。
「一登たちと合流して話を共有しよう」