作品タイトル不明
間話「絶望的なアドバイスじゃね?」④
茨木童子の鋭い爪が、明日香の顎を捉えた。
まるで本でもめくるように、少女の顔が剥がれる。
しかし、明日香は気にすることなく、茨木童子の小さな身体の腹部を蹴る。
「……混ざりものめ」
「いたーい。みんなが可愛いって言ってくれる顔に酷いことしないでよー。あんたと違って、みんなが褒めてくれるんだから」
明日香の言葉は挑発ではない。
挑発と取れるだろうが、違うのだ。
彼女は、本心をありのまま口にしているだけ。
――無論、茨木童子にとって挑発以外のなにものでもないが。
「ねえねえ、ぜっくん」
「――ぜ!? 急にこっちに声をかけて巻き込まないでもらたい、ね! とっても絶望的だ!」
「茨木童子さんって、ぜっくんにとって必要なの?」
明日香の疑問に、ぜっくんは悩んだ。
そして、首を横に振る。
「いいや、絶望的にいらない子だよ! ただね、茨木童子は敵にすると恐ろしいのだ、よ? なので絶望的に敵にも味方にもならないでもらいたいと思っているのだが、ね!」
「じゃあじゃあ、殺してもいい?」
明日香は「漫画を借りてもいい?」くらいのノリで茨木童子の殺害を提案した。
ぜっくんは、渋い顔をする。
「絶望的にお勧めしない。茨木童子は君では手に負えないよ、明日香くん」
「あー! そういう言い方されちゃうと、頑張って殺したくなるかも――」
笑いながらそんなことを言った明日香の顔を、茨木童子の貫手が貫いた。
顔の中央に穴が空き、茨木童子の細い腕が赤く染まる。
明日香の身体が痙攣し、血を吹き出す。
「くだらない……殺す気があるのなら、さっさと殺せばいいのに」
腕を引き抜くと、明日香の身体が後ろに倒れる。
血溜まりが広がり、床を濡らす。
「絶望の神……貴様は見る目がない。この程度の女に力を与えて、何になる?」
「ぜっくん的には、明日香くんを勇者に選んだのは絶望的に実験だったのだ、よ!」
「実験? 暇な神はつまらないことをするようね」
「いやいや、つまらなくないとも! 実験は、絶望的に成功しているよ!」
茨木童子は、目を見開いた。
彼女の目には、頭部に穴を開けて立っている松島明日香の姿があった。
「……そう。混ざり物ではなく、もう人間を辞めていたのね」
茨木童子の目には憐れみさえ浮かんでいた。
いたずらに混ぜられ、いったい何にされたのか。
「茨木童子さんってひどーい!」
明日香はケラケラ笑う。
口などないのに、笑い続ける。
「殺してやるのが救いか」
茨木童子が腕に力を込める。
凄まじい霊力が発せられ、風が生まれた。
「ぜっくんは茨木童子さんを私じゃ殺せないって言うけどー! できないことをできないままにしているのって、性格的に嫌なんだよね! ってことで、じゃーん!」
一瞬で顔を修復した明日香が、腹部に手を突っ込み肉塊を取り出した。
手のひらよりも少し大きい肉塊には、目や口、耳があった。
茨木童子の聞き違いでなければ、肉塊についた口からは「助けて」と言葉が漏れている。
「私が取り込んだみんなの一部をぎゅっとして、えーい!」
まるでバスケットボールのシュートのように、明日香は肉塊を投げる。
「この程度で私――」
茨木童子は鬼だ。
変わり果てた肉塊を投げられたとろこで動じることはない。
腕で払おうとしたが、次の瞬間、
「――ばーん!」
轟音を立てて肉塊が爆発した。
爆炎に茨木童子の小さな身体が包まれた。