作品タイトル不明
間話「絶望的なアドバイスじゃね?」⑤
茨木童子は、着物が焼け、皮膚に軽い火傷を負っただけだった。
大したダメージはない。
代わりに、怒りが吹き出さんとしていた。
感情に任せて暴れたいが、その衝動を飲み込む。
もう感情だけで動く鬼ではないのだ。
「……ふう。想定外の攻撃だったわ。でも、この程度じゃ私を殺せないわ」
明日香から返事はない。
それもそのはず、明日香の身体は首、胴体、足の付け根を切り離されて三分割され床に転がっていた。
「食ったものを爆発させるなんて、品がないわね」
剥き出しになった火傷した肌が再生し、白さを取り戻す。
「うわーん、ひどーい!」
転がった明日香の顔が、泣き真似をする。
頭部を切り離されて生きている生物は少ない。
鬼でさえ、死ぬ。
茨木童子はかつて首を刎ねられて生きていたが、それは単に力があったからだ。
強い霊力によって魂を繋いでいただけであり、首を刎ねられて死なないわけではない。
「……もういい」
明日香は首だけで笑う。
声を出し、息を吸い、吐き出す。
その姿は、鬼よりも異形。
寒気や嫌悪感を抱いてしまうほどだ。
同時に、茨木童子は明日香への関心を失った。
明日香には茨木童子を殺せない。
逆に、茨木童子に明日香を殺せない。
時間をかければ、殺せるかもしれないが、明日香に対しそこまでの関心を持てない。
絶対的な敵ではない、路肩に転がる石によくぞここまで相手ができたと思う。
物珍しさもあったのだろう。
「絶望の神」
「なに、かな!」
「私はもういいわ。地球に帰るために、なにもしない約束をして大人しくしていたけど、こんな気味の悪い混ざり物がいる場所にいたくないわ」
「ぜっくんしょんぼり」
「……あと、貴様が鬱陶しい」
「絶望的にしょんぼり!」
「この世界にしののんがいる。おもしろいことに、星熊童子、虎童子、熊童子もいる。ならば、会いにいけばいい」
「おっと、恋する少女は絶望的に行動的だね!」
ぜっくんは何もしない。
茨木童子の離反を特に何も思っていなようだった。
「どうせ会いに行ってもフられるだけじゃない? あと、しののんって、初々しいカップルでさえそんなこと言わな……ぷぷぷ」
首だけの明日香が「しののん」に反応し笑う。
さすがに茨木童子もそれは許せなかったようで、彼女の頭を蹴り飛ばした。
ぐしゃり、と壁にぶつかり潰れる音がした。
「いくら茨木童子とはいえ、女性を半裸で送り出すのは紳士的に絶望的だ! 餞別として、受け取ってくれたまえ! きっと、君によく似合う!」
ぜっくんが懐から衣服を取り出し、投げた。
「……一応、お礼を言っておくわ」
「ついでに助言しよう」
「聞くわ」
「安倍東雲に会いに行くことは止めないが、向こうには」
「わかっているわ。ギャラクシー河童勇者がいるのでしょう」
「あ、うん」
急にぜっくんがなんとも言えない変な顔をした。
「あの子に会うのも楽しみよ。殺したと思った私が生きていたなんて、どんな顔をするのでしょうね」
「そうだねー」
「じゃあ、さようなら。せいぜい新しい神話でもなんでもこの世界で作ればいいわ」
「う、うむ! 絶望的にさようなら! 道中気をつけて!」
ぜっくんが敬礼すると、茨木童子はひらりと崩れた壁から飛び降りる。
そして姿を消した。
「やれやれ。この部屋の片付けをしなければいけないのは絶望的だ! その前に、おーい、明日香くーん! 無事かなー! あ、無事だ! なんかここまで生命力強いと絶望的だなぁ! ぜーっぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜ!」