作品タイトル不明
35「掛け声は大事じゃね?」
「――ふう」
確実な手応えがあった。
破壊はできていないだろうが、同じ速度で襲いかかってきても、今度は気構えずに対応できる自信がある。
「よくやったわ! さあ! 追撃して完全に破壊して燃えないゴミの日に出してやりなさい! 雷をバチバチできる剣は私だけでいいのよ!」
「まーた、そんな過激なこと言う」
聖剣さんは追撃を希望のようだが、夏樹としては河童さんたちが守り神と崇めている剣を完全破壊することに抵抗があった。
「守り神様は僕達にとって大切な存在だかっぱー。できれば、なっちゃんにはもう戦ってほしくないかっぱー」
「うん! なっちゃん、もう戦わない!」
「あ、こら! 夏樹! あんたね、こんな可愛いデフォルメされた人形みたいな河童にデレデレして!」
「聖剣さんも、守り神様を許してあげてほしいかっぱー。きっと襲ってきたのも、なにか誤解があったはずだかっぱー」
瞳をうるうるさせてお願いする河童さんに、
「し、仕方がないわね。でも、二度はないわよ!」
聖剣さんも強くは出れず、怒りを収めた。
「よし! 守り神さんも静かになったってことで、河童さんの集落という天国へレッツゴー!」
「――じゃねえんだよ!」
大きく腕を上げた夏樹の後頭部を千手が掴んでギリギリと締め上げる。
「いたたたたたたたたたっ!」
「お前な! 攻撃の余波で、俺たち吹っ飛んだぞ! 見ろ、佐渡のやつなんてひとりギャグみたいに地面に聖剣のように突き刺さってるじゃねえか!」
「……さすが大地の勇者だね。大地と一体化しているなんて……やるね」
「そうじゃねえよぉおおおおおおおおおおおおお!」
千手は服に土埃をつけ、サングラスにヒビを入れていた。
彼の背後では、虎童子が「ダーリンったら急にあたいの胸の中に飛び込んできて――きゃっ」ともじもじしているが、見なかったことにした。
「まあまあ、千手さん。あれほどの剣が襲いかかってきて無傷ですんだのです。よしとしておきましょう」
「……義政先生がそういうなら」
義政のとりなしによって、千手は夏樹から手を離した。
小梅たちも、衣服の土をはたきながら集合する。
「では、気を取り直して河童さんの集落にいくぞ! せーのー、ギャラクシー!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
にこにこしながら叫んだ夏樹に対し、小梅たちが全員しらけた顔をしていた。
「……ちょ、なんで!?」
「だーれが、そんな意味わからん掛け声を言うと思ったんじゃ!?」
「今までギャラクシーなんて言ったことないじゃないっすか!」
「アドリブについていくにも限界があるんじゃぞ!」
「夏樹くんは個性が強いっすから、私たちだと次の言動が想像できないっすよ!」
「そんなに褒めないでよ!」
「褒めてないんじゃ!」
「褒めてねーっす!」
どうやら小梅も銀子も「ギャラクシー!」はお気に召さなかったようだ。
「待ってください、ならばここは、お姉ちゃんフォーエバー! と叫ぶのはどうでしょうか?」
「ありだな!」
「べあべあ!」
都の提案に、同じ妹枠の虎童子と熊童子が賛同して声をあげる。
澪は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「待ってほしいっす。間をとって、好きな酒の銘柄を叫ぶってどうっすか!」
「……銘柄で揉めそうなきがするんやけど。ビール買うにも散々スーパーで喧嘩したやないですか」
銀子が名案だ、と手を挙げるも、東雲のやんわりと「無理だ」と言われてしょんぼりした。
「……掛け声なんてどうでもええような気がするんやけど」
「だよね」
常識人枠の円と一登が、なぜ掛け声にこだわるのか疑問を抱いていた。
「もういっそ、まもんまもんでええんやない? なっちゃん、好きなんやろ。あの動画配信者」
続けて円が折衷案を出すと、夏樹たちがくわっ、と目を見開いた。
「――それだぁあああああああああああああああああああ!」
夏樹だけではない。
小梅たちはもちろん、ツッコミ役の千手さえ叫んでいた。
東雲に至っては、糸目が完全に開いていた。
「さすが円ちゃん。俺の伝説の幼馴染み!」
「そ、そうなんかな? ま、まあ、なっちゃんがええならボクもええんやけど」
まさか何気なく言ったことが採用されると思わず、円は困り顔だ。
「よーし! 掛け声は決まった! 日本の青森まで届くように叫ぶぜ!」
「おー!」
「――まもんまもん!」
夏樹は大きく叫ぶと、河童さんの集落を夢見て森に足を踏み入れ――。
「がっ!?」
ようとして、不可視の壁に音を立てて激突し、ひっくり返った。